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2008年03月06日(木) 00時00分

⑦スシが援軍「練馬産」に脚光読売新聞

盛況だった練馬ブース。スシも振る舞われた(練馬アニメーション協議会提供)

 スシ。この日本の伝統食をあの日ほど「ありがたい」と思ったことはない。昨年6月のこと。小さな制作会社で作る「練馬アニメーション協議会」の9人は、フランスにいた。業界の慰安旅行ではない。世界を相手に“練馬産アニメ”を売り込みに来たのだ。

 目指すは南東部の町アヌシーで開かれるアニメ国際見本市。「欧州と練馬の間に懸け橋を」。光延(みつのぶ)青児さん(43)は意欲をたぎらせる一方、緊張もしていた。リヨン駅からは魚のようなボディーの超高速新幹線TGVに乗り込む。押し寄せる期待と不安。車窓を飾る美しい南仏の景色は、おぼろに過ぎていくだけだった。

 見本市会場は体育館のような建物。そこに約280のブースがひしめく。日本から参加したのはほかに、大手の「東映アニメーション」。パリ支店の3人がりゅうちょうな外国語で接客していた。

 かたや練馬ブース。閑古鳥が鳴くほどではなかったが、入りはよくない。DVDで流したのは3本の短編。このうち『鉄人パパ』は光延さんの会社の作品だが、足を止めて見入る人は少ない。「ぼくらはしょせん小さな会社の集まりなのか」。光延さんはくじけそうになる。

 お昼過ぎ、救世主が現れる。メンバーの一人が会場近くのスシ店から配達してもらった、にぎり、いなり、巻物。みんなの口からは自然と「らっしゃい、らっしゃい」。威勢のいい掛け声が飛び出す。無料で振る舞い始めると、ブースはたちまち黒山のひとだかりに。作品もじっくり見てもらった。

 鉄人パパは、変身もの。ボウリング玉ほどの大きさのロボットが、男の子がピンチになると、周りの鉄くずを集めて巨大化し、助けてくれるというファンタジーだ。「クールじゃないか」。メガネをかけた仏テレビ局ディレクターが口笛を鳴らす。

 他の2作品も好評で、「脚本を送ってくれ」との申し込みが相次ぐ。みんなうきうき。ただし、この後には荒波も。思いもよらない出来事が一行を待ち受ける。ある国のテレビ関係者に注文通りDVDを送ったのだが……。

■アヌシー国際アニメーション映画祭■ 人口5万5000人の湖畔の町で行われる世界最大のアニメ映画祭。6日間で500本以上を上映する。過去には『紅の豚』(宮崎駿監督)『平成狸合戦ぽんぽこ』(高畑勲監督)が長編部門でグランプリに輝いた。見本市も並行して開かれ、各国の作品が取引される。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231203958795871_02/news/20080311-OYT8T00159.htm