記事登録
2008年03月06日(木) 02時32分

<地上げ事件>スルガ社、「プロ」との闇のタッグで急成長毎日新聞

 あの日が事件の始まりだった。

 JR横浜駅に近いビル街にある東証2部上場の不動産会社「スルガコーポレーション」役員室。03年6月ごろ、男はドアを開けるなり「偽の売買契約書が必要だ」と声を荒らげた。それが、弁護士法違反容疑で今回逮捕された「光誉(こうよ)実業」社長、朝治(あさじ)博容疑者(59)だった。

 役員たちはその風ぼうから「堅気じゃないな」と不安を感じた。それでも、岩田一雄社長兼会長(69)=4日社長辞任=は、光誉に交渉を任せた。当時、スルガ社は東京・有楽町の中古ビル(9階建て)を購入し、立ち退き問題を抱えていた。交渉が進まず借入金の金利負担が増し経営を圧迫していた。取引先の不動産業者に頼み込んで、「地上げのプロ」と朝治容疑者を紹介されていた。

 スルガ社は72年、一戸建ての建築会社として出発した。しかし、岩田社長は95年、業界紙に「工事の請負だけで高収益を確保するのは無理だ」と嘆いている。その後、目をつけたのが、都心のビルを購入しテナントを立ち退かせた後に転売するという「不動産ソリューション事業」だった。指定暴力団山口組系組幹部との交際をバックに立ち退きを迫る朝治容疑者は、うってつけの人材といえた。

 両者が初めて手を組んだのは03年8月。東京・渋谷のファッションビル「SHIBUYA109」に隣接する築40年のテナントビル(13階建て)の地上げだった。光誉の名刺を持った男がテナントを一軒一軒訪ね、光誉がスルガ社から所有権を譲り受けたように見せかけた偽の売買契約書を手にすごんだ。「うちが全部やるんだ。早く出て行ってくれ」。このビルは1年8カ月後に取り壊され、スルガ社は転売で億単位の利益をあげた。

 この「味」が病みつきとなり、スルガ社は光誉への依存度を強めていく。03年8月以降都内で購入した11棟のうち、渋谷区や港区など地上げが難航していた6棟で光誉との間で同様の偽の売買契約書を結んだ。都心の一等地では、立ち退きが早く進めば大きな利益につながる。

 スルガ社の売上高は03年からの5年間で2倍となり、07年3月期の連結売り上げは800億円超に急成長した。4日の会見で岩田会長は偽の売買契約書について「(光誉との間で)所有権を仮装していたことは知っていた」と認めた。急成長を担ったのは紛れもなく光誉の力だった。

  ■  ■

 上場企業が暴力団と関係の深い企業を利用した。山口組の東京進出と都心の不動産バブルを背景にした地上げ事件の構図を追った。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080306-00000013-mai-soci