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2008年03月05日(水) 00時00分

(6)口コミ神話 欺くブログ読売新聞


ブログに書かれている「おすすめ商品」。すべては広告だ(画像は合成)

 <わたしが選ぶとすればホットチリ(辛口)です>

 <プチ整形に興味のある女性は一度ホームページを見てみるのもいいかも>

 そのブログには毎日、テレビドラマの感想などとともに、こんな一言が書き込まれる。実は、どれもブログの書き手(ブロガー)の意見を装った広告だ。最初のはファストフードチェーンのチキンの味付け、2番目は美容整形外科をさりげなく売り込んでいる。

 ブログを書いているのは首都圏の金融コンサルタントの男性(42)。広告代理店から1本50〜200円の報酬を受け取り、月7000円前後の小遣いになる。商品の9割以上は使ったこともないが、男性は「商品へのこだわりが全くない。悪く書く理由がないでしょう」と意に介さない。

 商品や飲食店を選ぶ時、まずネットで検索し、どんな評判が書かれているか、掲示板やブログをのぞく人は多い。広告と違って、不特定多数の人が自由に考えを書き込むネットの口コミなら、本音が聞けるという「神話」があるからだ。男性のブログはそんな思い込みを逆手に取っている。

 ある広告代理店には、こうした「口コミ」広告を書き込むブロガーが約20万人登録しているという。ブロガーの募集サイトでは、例えば、飲食店用のディスプレーを作る業者なら「(店の飾りが)印象深かったので、つられてつい入ったという記事に」などと、書き方も指南している。

 「これは100%我々のミスであり、責任がある」

 2006年10月、米広告大手エデルマンがネット上でこう謝罪した。

 エデルマンは、顧客の米小売り最大手ウォルマート・ストアーズのイメージ向上のため、若い男女がキャンピングカーで米国内を旅行する様子をつづったブログを利用した。夜は各地のウォルマートの無料駐車場に車を止め、店員から親切にしてもらった様子が書き込まれている。だが、2人がエデルマンから報酬を受けとっていたことがわかり、「消費者を欺く行為だ」などと批判が殺到した。

 実は、エデルマンも加盟する米国の広告業界団体は倫理規定で、広告の場合はブログにも明記するよう求めている。それでも守られず、米連邦取引委員会(FTC)は06年12月、「口コミ・マーケティング(広告手法)の事実を告げないのは非倫理的」と警告した。

 これに対し、日本広告審査機構(JARO)の市川孝事務局長は「ブログ広告の苦情はなく、今は審査対象外だ」と話す。ブログ広告を出したファストフードチェーンも「当社が契約しているのは広告会社で、書き手との間のやりとりは関知していない」と言う。

 「作られた情報」は広告ばかりではない。

 <警察官の拳銃使用は絶対反対。犯罪者と言えども人権はある訳ですしぃ〜、犯人には傷一つ付けてはいけない>

 03年夏、社民党の福島瑞穂幹事長(当時)が、テレビ朝日の討論番組で何年か前に話したとされるこんな内容がネットの掲示板に広まった。他の掲示板にも転載され、批判を浴びたが、福島事務所によると、「番組でそんな発言をしたことは一切ない」という。

 この問題を指摘した有名ブロガーの荻上チキさんは「検証されていない情報が独り歩きし、流行を作り出したり人を陥れたりするのがネットの世界」と話す。

 玉石混交のネット情報。皆が言っていても、必ずしも正しいとは限らない。正しい情報と作られた情報、見極めるのは容易ではない。

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http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080305nt06.htm