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2008年03月05日(水) 16時48分

mixi規約改定問題 「ユーザーが著作者の時代」にまた繰り返す大騒動ITmediaニュース

 一般のネットユーザーが、著作権に敏感になってきている。SNSやブログなどユーザー投稿サービスが一般化する中で、権利者団体は著作権に関する啓発活動を強化。ネットサービスと著作権法との矛盾も指摘され続けている。

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 そんな中で起きたのが「mixi規約改定騒動」だ。3月3日に公表されたmixiの新規約(4月1日から適用)に新設された著作権に関する条項(18条)について、「mixiに投稿した日記が、無断で書籍にされるのではないか」という憶測が出回り、ネット上で騒動になった。

 ミクシィにはユーザーから問い合わせが殺到。翌4日になって「ユーザーの了解なしに書籍化などは行わない」とした上で、改定の意図を説明したが「下手な言い訳だ」「規約を変更しない限り、信頼できない」などと反発するユーザーも多く、騒動は収まっていない。

 ユーザー投稿型サイトの著作権に関しては、2001年ごろから何度も騒動になっている。ユーザーの著作物を、サービス提供者側が無償・無許諾で広範に利用するといった内容の規約改定についてユーザーが反発し、サービス運営者側が規約を再改定したり、説明に追われたり——掲示板サイトやブログなどでこういった自体がひんぱんに起き、サービス運営者もネットユーザーも、学習してきたはずだ。

 だが同じ過ちが、また繰り返された。

●mixi日記を勝手に書籍化される?

 今回の騒動の原因は、新規約の「18条」新たに設けられた2つの項目と、新たに付いた「附則」だ。

 18条には「1.ユーザーが日記などを投稿する場合、ユーザーはミクシィに対して、その情報を国内外で無償・非独占的に使用する(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行う)権利を許諾するものとする」「2.ユーザーはミクシィに対し、著作者人格権を行使しない」とあり、附則には「新規約施行前にユーザーが行った行為についても、新規約が適用される」とある。

 これを素直に読むと「ユーザーが投稿した日記や写真を、ミクシィが無断・無償で書籍化したり、映画として公開したり、改変したりできる権利を認めなさい。過去に投稿したコンテンツについても同様だ」と言っているように見える。mixi上に多くのコンテンツが貯まった今の段階になって「昔から蓄積してきたあなたの日記は全部ミクシィが無償で使いますよ」と宣告するという“コンテンツジャック”のようにも受け取れる。

 また「友人までにしか公開していない日記まで出版される可能性があるのでは」「日記“など”とあるからには、友人とやりとりしたメッセージも、どこかで公開されたり、出版される可能性があるのでは」といった憶測も呼び、ユーザーを不安に陥れた。

●クリエイターが悲鳴

 新規約にネット上でいち早く懸念を表明したのは、商品価値のあるテキストや写真をmixiに投稿してきた、プロやセミプロのクリエイターたちだ。

 「オリジナルのイラストや写真、レビューやエッセイなどをUPしてる人、特にプロやセミプロはタダで使われちゃ困るんだよ」——映画評論家の町山智浩さんは3日付けのブログエントリー「ミクシイはあなたの日記をあなたに無断で商品化します」でこう表明。ブログやmixi日記に同様な意見を掲載したり、「この機会にmixiを辞める」と表明するクリエイターも現れた。

 多くのユーザーがmixiやブログ上で懸念を表明。「利用規約」は3月4日のmixi日記キーワードランク1位になった。同日、mixiに新設されたコミュニティ「mixiの規約改定に異を唱える」には3月5日現在、5000人以上が参加しており、規約の内容について意見交換したり、改定反対を示すプロフィール画像を共有・利用している。

 当初は規約の「改悪」を批判する内容の投稿が多かったが、時間が経つにつれて「こんなに騒ぐべきことだろうか」と落ち着いた議論を呼び掛ける声が増えてきた。5日12時ごろには、「本来あるべき利用規約を考える」というスレッドも立ち、他ブログサービスなどの利用規約を参考に、新しい規約を考えようという動きも出てきている。

●mixiの釈明

 ミクシィにもユーザーから多くの問い合わせがあり、釈明に追われた。ユーザートップページの「運営者からのお知らせ」には「補足説明」として、「ユーザーの日記などの権利は従来通りユーザー自身が持ち、書籍化も、ユーザーの事前了承なしには進めない」と明言した。

 その上で、18条の追加は、

(1)投稿された日記データなどをサーバに格納する際、データ形式や容量が改変される(ユーザーの著作者人格権《同一性保持権》を侵害する)可能性がある

(2)アクセス数が多い日記などは、データを複製して複数のサーバに格納する(ユーザーの複製権を侵害する)可能性がある

(3)日記などが他ユーザーに閲覧される場合、データが他ユーザーに送信される(ユーザーの公衆送信権を侵害する)可能性がある

 ——など、厳密に著作権法を適用した場合に、ユーザーに無断で行うと法に抵触しかねないデータの複製や改変について、規約で改めて規定し、ユーザーに同意してもらうためだった、と説明した。

 つまり、ネット時代を前提としていない現行の著作権法をmixiサービスに厳密に適用した場合、データのバックアップや圧縮、再送信といった通常業務ですらユーザーの著作権を侵害すると認められる恐れがあるため、規約であらかじめユーザーに許諾してもらっておき、意図しない著作権侵害を防ぐのが目的だった──ということのようだ。

●「人格権の不行使」は一般的だが……

 新設された18条の2にある「著作者人格権の不行使」について、反発するユーザーが多かった。だがこれは、mixiに限らず、ブログサービスや掲示板など投稿型サービスの多くに定められている一般的な事項で、「gooブログ」「2ちゃんねる」などの規約にも同様な事項がある。

 日本の著作権法は、著作者人格権として、著作者に強い同一性保持権(著作者が、意に反する著作物の改変や削除などを受けない権利)を認めており、この権利は一身専属で他者に譲渡できない。

 しかし投稿コンテンツをダイジェスト配信したり、ペットの写真をトリミングして紹介したり、サイトでの紹介時に意図が変わらない範囲で文章を読みやすくするといった編集行為や、サイトレイアウトの変更なども、ユーザーの「意に反して」いれば、同一性保持権の侵害として差し止められる可能性が否定できない。「同一性保持権の不行使を定めておかないと、著作物を利用する側からは安心できないということになる」と、弁理士の栗原潔さんは解説する。

 ただ、ミクシィが著作人格権の不行使を定めた理由として挙げた「投稿された日記データなどをサーバに格納する際、データ形式や容量が改変される(ユーザーの著作者人格権《同一性保持権》を侵害する)可能性がある」について、栗原さんは疑問を呈する。

 「このケースは、著作権法20条2項4号の『著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変』に当たるだろう。わざわざこのような規定を設ける意味が分からない」(栗原さん)

 しかしもっと大きな問題は18条の1「ユーザーが日記などを投稿する場合、ユーザーはミクシィに対して、その情報を国内外で無償・非独占的に使用する(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行う)権利を許諾するものとする」——つまり著作財産権(著作物を使用、収益する権利。複製、上映、公衆送信、展示、頒布権など)の無償利用をミクシィに認める、という内容にある。

●新規約、行き過ぎでは

 「ミクシィの説明通り、無断で書籍化するなどといった意図がないなら、著作財産権全体に対する許諾を要求する必然性がよく分からない」と栗原さんは言う。

 ミクシィは「日記のバックアップのための『複製』」「日記を他ユーザーなどに見せる際の『公衆送信』」を、ユーザーに無許諾で行うため、18条の1を定める必要があったと説明している。だが栗原さんは「利用規約に『こういう行為をするのでいいですね』と具体的に書けば済む話」と指摘。例えば「mixiサービスの運営に必要な範囲で、複製・再配信することを許諾する」などと、範囲を限定した規約で足りたはずで、「複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変などを行う」権利をすべて許諾させる必要はなかっただろう。

 他ブログサービスの規約では実際、利用範囲を限定した上で、ユーザーの著作財産権の無償・無許諾利用を定めている。例えばlivedoor Blogの場合は「ユーザーのブログとそれに付随するコメント、トラックバックは、ブログを作成したユーザーに著作権が発生する」と確認した上で、「宣伝、利用促進、出版、マーケティング等を目的としブログサービスの著作物を使用する場合、ユーザーはライブドアに対し、著作物を無償利用することを、期間無制限で非独占的に許諾する」と、具体的な利用範囲を明示している。

●2ちゃんねるの投稿の著作権は「掲示板運営者に譲渡」される

 ちなみに「2ちゃんねる」の規約はこれらとはかなり異なる。著作者人格権の不行使を定めているのは同じだが、(1)書き込みの著作権を2ちゃんねる運営者に無償譲渡した上で、(2)2ちゃんねる運営者が投稿者に複製、公衆送信、頒布、翻訳する権利を許諾する——となっている。

 つまり、書き込みの著作権は2ちゃんねるが譲り受け、その後、2ちゃんねるが著作者として、書き込みした本人に使用権を付与する、という形だ。

 この規約の意図について管理人の西村博之氏は「2ちゃんねるは自由に使ってほしいが、自分の知らないところでコンテンツがタダで再利用されたり、書籍や映画にするのはやめてほしい」という意図だと書籍「2ちゃんねるで学ぶ著作権」(P178)で説明している。2ちゃんねる側が著作者としての権利を持つことで、無断書籍化などを差し止める権利を保有する——という狙いがあるそうだ。

●同じ過ち、なぜ繰り返す

 本当にミクシィは、ユーザーの日記を無断で書籍にしないのか——この規約のままでは不安が残る。

 ミクシィの広報担当に18条改定の真の意図を尋ねても、「mixiサービスが多様化したため、規約全体を大幅に改定した。18条だけの問題ではない」と繰り返すばかり。規約の再改定の可能性を尋ねても「ユーザーが利用しやすい内容になるよう引き続き検討していく」と、はっきりした答えがなかった。

 投稿サイトの著作権に関する、サービス運営者とユーザー間のトラブルは、過去に何度も繰り返されてきた。01年にはジオシティーズ(現Yahoo!ジオシティーズ)で、04年にはgoo ブログやlivedoor Blogで、06年にはドリコムブログでそれぞれ、著作権に関する新規約がユーザーの反発を呼び、規約改定を迫られた。

 こういった歴史を踏まえながら、日本最大のコミュニティーサイトであるミクシィがなぜ、今回のように強引な規約改定に踏み切り、十分な説明もないまま押し切ろうとしているのか——

 ユーザーが自らの著作権に敏感になっている今、著作権に関する規約改定は最も慎重に行うべきだ。「ユーザーの著作物を無償で利用する」といった強い権利を求めるのであれば、一方的に規約の文言を書き換えるだけでなく、なぜそれが必要なのかをユーザーが納得いくまで説明を尽くす必要がある。そうしない限り、ユーザーは離れていくだろう。

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  「mixi日記、無断書籍化はしない」——規約改定の意図をミクシィが説明
  「著作権は混迷」「ダメと言ってもネットは止まらない」──東大中山教授

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