記事登録
2008年03月04日(火) 00時00分

(5)有害サイト 子供に魔手読売新聞


都内の中学で警視庁が保護者に携帯電話の有害サイトの説明会を行った(2月7日、東京・江戸川区で)=小林武仁撮影

 <近場だったら助けにいきたいけど>インターネットのチャット(文章による会話)で悩みを話す小学6年生の少女に、男性会社員(21)は優しい言葉を送り返した。

 少女は九州、会社員は関西に住む。接点のなかった2人が知り合ったのは、昨年7月末。愛好者の交流のため、ゲーム攻略サイトに設けられたチャットがきっかけだった。チャットを続けるうち、少女は自分が12歳で、家族との関係がうまくいっていないことなど、悩みを打ち明け始めた。

 会社員は親身に答えるように見せながら、再三、家出を促すようになった。

 <家の中がそんなのだったら外でるしかないわね>

 <よければ部屋を提供するけども>

 知り合って2か月後、少女は甘い誘いに乗って家を出た。乗り慣れない電車を乗り継いで会社員と落ち合い、自宅に連れ込まれた末に性的な被害に遭った。

 会社員はわいせつ目的誘拐などの罪で起訴され、裁判中だ。地方裁判所で2月に行われた被告人質問では誘拐を否定したが、「家出の話をしたのは僕から」と答え、家出を勧めたことは認めている。

 裁判では、会社員がネットで知り合った女子高校生にも、自分のところに来るよう誘っていたことも明らかになった。会社員は「遊び半分で、その気もないのに適当に文章を並べて反応を見る。ネットではよくあること」と話している。

 ネット社会が広がる中で子供が性犯罪などに巻き込まれるケースが増えている。警察庁によると、2007年に出会い系サイト関連の被害に遭った18歳未満の子供は1100人と、01年の584人から倍増した。

 東京・六本木で診療所を開く産婦人科医、赤枝恒雄さん(63)のもとには、出会い系サイトで知り合った男から、様々な被害に遭った少女が相談に訪れる。

 「男にホテルに連れ込まれ、レイプされた」

 「相手が暴力団員で、刺青(いれずみ)を入れられた」

 赤枝さんは9年前から、都内の繁華街で若者の相談に乗るボランティアも続けているが、「ネットの普及で、少女が見知らぬ男性とも簡単に知り合い、性的な関係を持つようになってしまった」と心配する。

 同時に、「親は携帯電話でいつでも子供と連絡が取れると安心してしまい以前より子供の外泊や深夜の外出に注意を払わない」と無関心ぶりに怒る。

 東京都江戸川区の中学3年の女子生徒(14)が昨年、出会い系サイトで事件に巻き込まれ、死亡した。

 同じ区内にある中学校で今年2月、保護者向けに携帯電話の危険性を知らせる説明会が開かれた。

 携帯電話各社は、有害サイトへの接続を制限する「フィルタリングサービス」の利用を進めている。今年に入って、子供名義で携帯電話を契約する場合は保護者が「利用しない」と表明した場合を除いて、フィルタリングをかけるようになった。ただ、子供から「不便だ」などと言われてフィルタリングの利用に二の足を踏む親もいる。

 説明会で、警察官が自殺志願者や家出を誘う掲示板、死体写真のサイトなどの有害サイトについて解説すると、約100人の親たちは静まりかえった。

 ある保護者(46)がぽつりと漏らした。

 「携帯電話から有害情報に、こんなに簡単に接続できるなんて……。私たちは知らなすぎた」

 ◆連載「ネット社会」へのご意見をお寄せください。投稿はこちら

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080304nt01.htm