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2008年03月02日(日) 22時21分

東京ドーム約1個分のゴミ違法搬入、背後に暴力団の影朝日新聞

 全国最大規模のごみが違法搬入された福井県敦賀市の民間廃棄物処分場で、土地の行方が宙に浮いている。債権者の整理回収機構と、破産管財人が県に無償譲渡しようとしたところ、県が拒否を表明したためだ。このままでは処分場の一部は暴力団と関係のあったとされる業者名義のままとなり、環境対策に支障を来す恐れが出るとの指摘も出ている。回収機構や破産管財人は「行政の責任放棄だ」と県の姿勢を厳しく批判。各地から東京ドーム約1個分(約110万立方メートル)ものごみが運び込まれた処分場は、先行きが見えない。

福井県が土地の引き取りを拒否した処分場=2月21日、福井県敦賀市で、本社ヘリから 数寄屋造りの建物(右)と元役員宅=2月22日、福井県敦賀市野神で、本社ヘリから   

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 「社会的責任の観点から、環境対策を進める県が引き取るのが妥当」。昨年暮れ、破産管財人が西川一誠知事に文書で異例の要請をした。処分場経営会社「キンキクリーンセンター」(昨年2月に破産)所有の土地を県が引き取るよう求める内容だった。約20万平方メートルに及ぶ処分場のうち、約5万4千平方メートルをキンキ社が所有し、残りは個人と別の企業が持っている。

 その前後には、キンキ社の最大の債権者である整理回収機構も県に引き取りを求めた。

 破産管財人の一人の川村一司弁護士は「キンキ社は暴力団との関係が取りざたされていた。関係を一切断ち切るには行政が管理するべきだとの考えだ」と話し、回収機構も「社会的な意義を重視し、回収など本来の業務の枠を超え、あえて要請に踏み切った」と言う。

 ところが、県は1月30日、「土地取得に必要な境界確定や用地測量が困難」として引き取り要請を拒否。県幹部は「測量に数千万円かかり、利用価値のない土地への公費投入は県民の理解が得られない。常識で考えてこの土地をだれかが取得することはないだろう」と話す。

 ごみは92年ごろから約10年間にわたり違法搬入された。約7割が産業廃棄物、残りの約3割が一般廃棄物とされ、茨城県から岡山県まで各地から運び込まれた。今年1月、県と敦賀市が汚水流出を防ぐための工事を始めた。キンキ社に代わって県と市が実施する抜本対策事業の一環で、代執行は12年度まで実施される。公費102億円が投入され、負担額は国約39億円、県約42億4千万円、敦賀市約20億4千万円になる。

 関係者によると、キンキ社の破産手続きは5月ごろ終了する予定だ。県が引き取りを拒否したことで、キンキ社が所有していた約5万4千平方メートルはキンキ社名義のままになる。県や敦賀市はキンキ社の土地に巨費を投じて対策事業を進めることになる。

 回収機構の関係者は「所有者らの立ち入りを制限する規定はなく、環境を悪化させるなどしない限り、シートで覆った処分場に物を置くなどの使用や占有は許される。しっかり行政代執行ができるのか疑問だ」と県の方針に反発する。

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 JR敦賀駅から南西約2キロの住宅街に、地元で「迎賓館」と呼ばれる豪邸がある。登記簿によると、キンキ社の関連会社が99年春に建築した。

 キンキ社元役員らから経営実態などについて事情を聴いた破産管財人は「ごみの違法搬入によって得た利益が建設費に充てられたと考えられる」と話す。

 高さ約2.5メートルの塀に囲まれた約2800平方メートルの敷地に、数寄屋造り(約260平方メートル)と、鉄骨2階建てのキンキ社の元役員宅(延べ約610平方メートル)が立つ。数寄屋造りにあるサウナ付きの風呂場は全体で20畳を超え、元役員宅の部屋は全部で20室ある。

 2棟の建設費は坪単価150万〜250万円で、建物だけで計約5億円に上る。

 県警や関係者によると、数寄屋造りの建物は、昨年初めまで、指定暴力団山口組系の組員が占有し、監視カメラが常時作動するなか、黒塗りの高級外車が次々と乗り付けていた。

 また山口組系暴力団の幹部が一時住んでいたほか、幹部の誕生会や接待などの宴会もよく開かれていた。渡り廊下でつながる元役員宅にも、組員らが出入りしていた。

 破産管財人によると、暴力団組員と元役員側は、06年5月から2年間、月額税込み30万円の家賃で迎賓館を賃貸借する契約を結んでいたと説明していた。実際に家賃の支払いがあったのかどうかは不明という。

 整理回収機構が昨年11月に競売で土地と建物を落札し、3月5日から2棟の取り壊しを始める予定だ。回収機構は「もうけを豪華な建物につぎ込み、さらには暴力団に使わせていたというのは許されるものではない。象徴的な建物をなくし、暴力団の影を断ち切りたい」としている。

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 《国内最大の産廃不法投棄現場といわれた香川県・豊島(てしま)で住民運動に取り組んできた前県議の石井亨さん(48)の話》

 完全にごみを撤去せず、将来的に汚染の可能性が完全に否定できないならば、公共機関が所有して管理するのが理想的だ。豊島の場合、地元3自治会が処分地を買い上げ、地方自治法に基づいて法人としての認可を受け、事実上の公共地にした。それは、不法投棄した業者から土地を借りた別の業者が土砂を運び込み、ミニゴルフ場に造成しようとしたことがあったからだ。対策に税金を投入する以上、行政は責任を持つべきだ。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200803010116.html