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2008年02月29日(金) 00時00分

(2)安易な発信 生活も「炎上」読売新聞


高校生を非難する掲示板への書き込み(田中成浩撮影)

 いたずらのつもりだったインターネットへの書き込みが、1人の高校生を自主退学に追い込んだ。

 <(バイトしていた)ケン○ッキーでゴキブリ揚げてたムービー撮ればよかった>

 首都圏の私立高校3年の男子生徒が昨年12月上旬、会員同士が交流できる「ミクシィ」の日記にこんな一言を書き込んだ。

 この一言は瞬く間にネット上に広がり、「飲食店でゴキブリを揚げるなんて」と、「犯人」たたきが始まった。ミクシィに公開したプロフィルや日記を手掛かりに、生徒の卒業した小中学校や生年月日までさらされた。同級生も参加、教室での様子も明らかにされた。

 <賠償金を払わせて、退学させよう><そいつの人生をつぶせ>

 ネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」には、こんな書き込みがあふれた。日本ケンタッキー・フライド・チキンは、ホームページで「事実無根」と釈明に追われ、高校には約100本もの抗議の電話がかかった。

 父親は憔悴(しょうすい)しきった生徒を連れ高校を訪れると、電話が鳴り響く事務室の奥で申し出た。「迷惑をかけました。退学させます」

 書き込みは、ネット上で牛丼店の従業員が具を大盛りにしてふざけている動画が直前に出回り、騒ぎになったことに触発されたものだった。高校によると、生徒は「仲間しか見ていないと思って、面白おかしくウソを書いてしまった」とうなだれていたという。

 ミクシィのようなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログ、掲示板など、ネット上で他人と交流するサービスが急拡大する中で、特定の書き込みに批判が集中する「炎上」や「祭り」と呼ばれる現象が相次いでいる。

 面白い話を書き込んで、より注目を浴びたい——。そんな思いが、過激な書き込みを生み、炎上や祭りにつながっていく。

 「ネタに困り、つい誇張して書いてしまった」

 ブログが炎上した経験を持つ首都圏の40歳代の男性は今も悔やむ。ブログを始めたのは2年半前。閲覧数に一喜一憂するようになり、帰宅すると真っ先に確認する習慣がついた。

 炎上の原因は、受けを狙って大げさに書いた動物虐待の経験だ。ある日突然注目され、それまで数十件程度だった閲覧数は800件を超えた。すぐに無言電話がかかってくるようになり、掲示板には自宅や車の写真が公開された。「自分がどう書かれているか、見るのが怖い」と炎上後、ネットとは縁を切った。書いた内容は「もう知られたくない」と話した。

 ネットに書いた「ゴキブリ揚げた」といった話は、実生活の会話なら「くだらないことを言うヤツだ」などと軽蔑(けいべつ)されるにとどまったかも知れない。

 だが、ネットは違う。仲間だけが参加するSNSに書き込んでも、その仲間が別の掲示板に転載すれば、時間や場所を超えて広がっていく。仲間にだけ示したプロフィルも、すぐに見知らぬ人の手に届く。炎上に詳しいウェブコンサルタントの伊地知晋一さん(39)は「ネットは私室ではなく、街角や駅のような空間。不用意な発言や、職場・学校などの個人情報の公開は控えるべきだ」と警告する。

 もちろん、言葉尻をとらえられての炎上も多い。確かなのは、誰もが自由に情報発信できる総放送局時代は、いつ自分が集中砲火を浴びるかも知れない危険と隣り合わせということだ。

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