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2008年02月26日(火) 16時19分

26年半前のロス事件、驚きの展開へオーマイニュース

 『郵便配達はいつも二度ベルを鳴らす』を書いたジェームズ・M・ケインを、書評誌『パブリシャーズ・ウイークリー』は「性と金と暴力というアメリカの妄執を解剖した作家」と評した。1934年に書かかれたこの小説は大好評を呼び、いままでに3度映画化された。

 「ロス疑惑」で騒がれた三浦和義氏(60)が、同じ容疑でロスアンジェルス市警に逮捕されたという報道を見て驚いた。逮捕理由は1981年8月のロス市内の駐車場で起きた一美さん銃撃事件と、その3か月前に、ロス市内のホテルで、女優で三浦氏の元恋人に一美さんをハンマーで襲わせたという「殴打事件」といわれる。

 事件直後、米当局は医療設備つきの航空機でこん睡状態の一美さんを日本へ送り届けたが、一美さんは病院で意識を回復しないまままもなく息をひきとった。

 2 つの事件とも、日本で5年前に刑が確定している。銃撃事件は、東京地裁による無期懲役の判決を受けた三浦氏は上告し、高裁で無罪とされた。検察側が最高裁に上告したが、2003年3月、最高裁は上告を棄却し、大きな疑惑を人びとの心に残したまま、同氏の無罪が最終的に確定した。一方、殴打事件では懲役6年の実刑判決が確定して、同氏は収監され、2001年1月に服役していた宮城刑務所を出所した。

 日本には「同じ犯罪で2度裁かれることはない」という「一事不再理」の原則がある。これは憲法で明文化されている。米司法当局による同氏の逮捕は、日本の主権侵害の問題は生じないか。町村信孝官房長官は早くも声明を発して、米側から捜査協力の要請があれば協力すると言っているそうだが、米司法当局が日本の最高裁の決定を覆そうというときに、日本政府はただ「協力」すれば良いのだろうか。

 1984年の夏のオリンピックを控えて、ロサンジェルス市は治安の悪化と「犯罪と暴力の街」というイメージが世界にひろまり悩んでいた。衣類の買い付けのために米国を何度も訪れていた三浦氏は、ロスアンジェルス・タイムス紙のインタビューを受けて、「ロス市をもっと安全な街にするように、(当時の)ロナルド・レーガン米大統領とエドムンド・G・ブラウン知事にあてて手紙を書く」と言ったり、「多くの若者が夢を抱いて米国にやってきている。(強盗目的に旅行者が銃撃されるなどという)こんな事件は2度と起こらないように願いたい」などと、自らを悲劇の被害者として語ったりしていた。

 その後、三浦氏は一美さんにかけていた1億5000万円を超す生命保険を受け取ったといわれる。同氏は書店やスーパーで万引事件を起こすなど、かなりせこい人間ぶりを見せているようだ。

 ケインの小説はメキシコ国境に近いティファナの町外れでガソリンスタンド兼安食堂を舞台に、冷酷な殺人者である男と女を描いたハードボイルド作品だが、荒々しい心の底にはナイーブな情感が感じられて、ぼくの好きな作品の1つだ。しかし、半世紀たった1981年にティファナからそう遠くはないロスアンジェルスで起こったとされるやはり性と金と暴力の妄執らしいストーリーの主人公を好きにはなれない。

(記者:矢山 禎昭)

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