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2008年02月24日(日) 19時59分

なぜ今?ねらいは? 三浦容疑者逮捕、沈黙守る米当局産経新聞

 【ロサンゼルス=松尾理也】米ロサンゼルス市で起きた銃撃事件に絡み、会社役員、三浦和義容疑者(60)が逮捕された事件で、日本での無罪確定後の逮捕という異例の手段に踏み切ったロサンゼルス市警は23日、一切の情報提供を拒否して沈黙を守り、「ロス疑惑」と呼ばれた一連の事件を担当した元捜査担当者らも口をつぐんだ。なぜ、事件発生から27年を経た今、摘発に着手したのか。その意図とねらいはまだ明確には示されていない。

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■沈黙

 「三浦容疑者逮捕」の一報は、米メディアの間でも高い信頼性を誇るロサンゼルス・タイムズが報じる形で明らかになった。事件の意外性も相まって、市警の並々ならぬ意気込みを感じとった向きも多かったはずだ。

 しかし実際にはタイムズの満を持した“スクープ”というよりは、前日にとくに目立つことなく提供された発表資料をそのまま記事にしただけ、というのが真相のようだ。扱いは地方版の片隅という地味なもの。執筆した記者も「発表資料以上の情報は得ていない」と話す。

 ロス市警はこの日殺到した日本のマスコミからの取材にも一切応じず、ほかの米メディアもこのニュースにほとんど反応を示さなかった。

 今回捜査にあたった市警未解決事件担当班は、迷宮入りと思えた事件を解決するなど、派手な活躍を見せる部署でもある。しかし、市警を監督する立場の地方検事局のある検事は「優先されるのはフレッシュな事件。未解決事件をめぐってはすでに逮捕状や捜索令状が山のように準備されているが、他の事件が平穏な時機を見計らって消化するのが精いっぱい、というのが現実」と明かす。

 地元テレビ局の特集によると、ロサンゼルス地域では1960年以降、殺人件数は累計で2万7000件にものぼり、うち約9000件が未解決となっている。殺人事件に時効のないカリフォルニア州では、こうした未解決事件が次々に堆積(たいせき)してゆく。

■執念

 「ロス疑惑」として日本のメディアが集中的な報道を繰り広げた当時、ロス地検検事として捜査にあたったルイス・イトウ弁護士は、電話取材に対し「現場から離れて長い時間がたっており、コメントには応じられない」と語るにとどまるが、「地元で起きた事件に対し、ロスの捜査関係者が強い執念を持ち続けていることは当然」(刑事司法に詳しいロサンゼルスの弁護士、ミア・ヤマモト氏)など、捜査側の執念を指摘する声もある。

 今回の逮捕で特に注目されているのが、逮捕容疑に殺人罪に加えて「共謀罪」が含まれている点だ。当時の捜査で、米側が最後まで検討を重ねたのが、日本にはない訴因である「共謀罪」であり、さらにその急先鋒(せんぽう)の一人がルイス・イトウ氏だったからだ。

 捜査幹部の一人、ジミー・サコダ氏が当時の捜査のもようをつづった「日米合同捜査」(講談社)によると、金銭目的で殺人をもくろむ謀議をめぐらしたという事実が立証されれば、米国は死刑の可能性を含む厳しい刑罰を科すことができる。殺人についての物証がまったくない同事件で、共謀罪は米国の法制度ならではの“切り札”だとして、起訴に持ち込むべきだとの白熱した議論が戦わされたという。

 「殺人と共謀」という今回の逮捕容疑は、日米捜査協力の結果、ぎりぎりで見送られた当時の米側のねらいと一致しているといえなくもない。

■風化

 事件の舞台となったロサンゼルス中心部、そして日本人町「リトル・トーキョー」は27年の歳月を経て大きな変化を遂げた。一連の事件の重要な舞台となったホテルニューオータニは最近、米国資本に売却され、名前を変えた。日系人の若い世代の中には、事件を知らない者も少なくないが、「ロス疑惑」の暗い響きはまだまだ人々の特別な感情を呼び起こすことも事実だ。

 ロサンゼルス観光局は1年以上前から、ロサンゼルスの略称としての「ロス」との呼び名を「LA」と改めるよう、メディアに要請している。「ロスといえば、『疑惑』『暴動』といった否定的なイメージがつきまとうため」(同局関係者)だといい、今回の三浦容疑者逮捕をめぐっても、ロサンゼルスのイメージダウンにつながらないよう注目していく、としている。

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