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2008年02月16日(土) 13時30分

ゴマちゃん、なぜ来るの 北の日本海で急増朝日新聞

 北海道北部の日本海でゴマフアザラシが増えている。潮が引いた岩礁などに数百頭が乗り上げ、まるで楽園だ。毎年秋になると北の海から来遊し、春には大半が戻っていくが、食欲旺盛で漁業者との摩擦は絶えない。急増の原因ははっきりしないが、研究者からは温暖化による流氷の減少などを指摘する声があがっている。

 「400頭はいますね。12月から1月が最も多いんですよ」。牧場のアルバイトで生計をたてながら焼尻(やぎしり)島で観察を続ける河野康雄さん(42)は、島東部の岩礁を指さす。体育館ほどの広さの新九郎岩を埋め尽くすようにゴマフアザラシが寝ころび、毛を乾かしている。

 観察は6年前に始め、1日の最大観察数は03〜04年が274頭、その後、440頭、390頭、424頭と推移し、今冬は557頭(12月24日)に。妊娠中のメスとオスの成獣の多くが2月にいったん姿を消すが、再び来遊し、春にかけて減っていくという。

 焼尻島より北の稚内の抜海港や礼文島もほぼ同じ状況だ。NPO法人北の海の動物センター(網走市)が03年から毎冬2〜3月に道内25地域で一斉に生息状況を調査しているが、日本海での増加はどこも著しい。

 ゴマフアザラシは毎年3〜4月に流氷の上で出産し、育児期を経てすぐに交尾に入る。夏場はサハリンなど北の海で過ごし、秋からまた来遊してくる。出産や繁殖に流氷が必要なため、かつてはオホーツク海が主な来遊場所だった。

 河野さんは「焼尻はエサなどの面で居心地がいいのだろう。でも北の海の全体状況がわからないと、日本海への来遊の原因はわからない。ロシアの学者と合同で調査できれば」という。

 ●食事、毎回5キロ

 漫画「少年アシベ」で巻き起こった「ゴマちゃん」ブームの影響もあって、来遊地では観光資源にもなっているが、漁業者にとっては脅威だ。好物はタラやカレイ、サケ、ニシン、タコなど。1頭が1回の食事で5キロ前後も食べるといわれ、定置網や刺し網を壊し、中の魚を食べる。

 駆除が道の許可制になった04年と05年に駆除申請したのはオホーツク海側の羅臼漁協だけだったが、06年には焼尻漁協、07年には日本海に面した道南の島牧村が加わり3漁協・自治体に。

 焼尻漁協は「警戒心が強く、銃声が聞こえると一斉に海に入るから、思うようにいかない。少ない時はよかったが、いまは可愛いとばかりも言っていられない。うまく共生できればいいが」と言う。

 70年代半ばまではロシア(旧ソ連)と日本が毛皮や肉を求めてオホーツク海でゴマフアザラシを大量に捕っていた。いまは大がかりな猟はない。最近は道東部の風蓮湖や野付半島だけでなく、日本海側でもわずかだが夏季の定住が増えてきた。今後、道内への来遊がますます増え、繁殖地になる可能性がある。

 ●流氷域原因か

 北の海の動物センター理事の小林万里・東京農大講師(39)は「流氷の減少で冬場に宗谷海峡が通りやすくなり、日本海側への回遊が容易になったのだろう。大量捕獲がなくなり魚を育む流氷も減った。北の海では上陸場やエサの競争が激しくなり、ますます日本海側への来遊が増えるかもしれない」と話す。 アサヒ・コムトップへ

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