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2008年02月13日(水) 00時00分

第7回 宮藤官九郎さん読売新聞

 シンガー・ソングライターの松任谷由実さんと、豪華なゲストによる夢の対談「yumiyoriな話」。今月はゲストに、脚本家、俳優、舞台演出家、映画監督——と様々な顔を持つ宮藤官九郎さんをお迎えしました。ジャンルは違えど、創作の喜び、生みの苦しみについて二人は深く共感した様子。興味深い対談になりました。(構成・田中誠)

いない所で褒めて

松任谷(以下M) 面白かったです、監督された「少年メリケンサック」。笑いのツボが一緒だからうれしかった。劇中歌は最高ですよ。

宮藤(以下K) ありがとうございます。恐縮です。ちゃんと見ていただいて。

 (エンディングに「守ってあげたい」が使われて)光栄です。今までで一番うれしかったかもしれない。

 音楽を担当してくれた向井秀徳さんが以前、ライブで弾き語りをしていたのを聴いた時、ちょっと笑っちゃったんです。女目線の歌を男が歌っていることも含めて、なんかいいなと。

 あ、本当。(笑)

 散々うるさい音楽を流した後なので最後は静かな曲にしよう、という話になって。何が流れたらお客さんがびっくりするかな、プラス、いいものを見たという気持ちになってもらえるかな、と考えた時に、ほかを思い付かなかったんです。

 表向きは静かなんだけど、気持ちがほとばしり出ているような気がした。それが、映画全部通じてのパンクの心だと思った。

 そういうふうに言っていただけると、うれしいです。パンクとは違う音楽をされてますよね。

 現象的にはね。でもね、パンクの方からは「ユーミンってパンクだよね」、ロックの方からは「ロックだよね」って言ってもらえるんです。アティテュード(姿勢)なのかな。形じゃなくて。

 それはすごい。パンクって、形で表れたものがどうっていうより、そこまで行く心意気に意味があると思って……、今日、何て呼べばいいですか。

 “ユーミン”で。

 ユーミンはパンクだと思いますよ。「守ってあげたい」を改めて聴いて、びっくりしました。「こっちまでブルーになる」ってフレーズに。1番で「守ってあげたい」と言っているのに、2番で逆ギレするのかみたいな(笑)。

 映画「GO」がすごく好きだったんです。原作の小説のグルーブ感が好きだったから、期待してなかったんだけど、映画の方が面白いかもと思った。名前は意識してなかったんだけど、きっと脚本がいいんだろうなって。

 ありがとうございます。僕がいないところで、もっと褒めていただきたいぐらい(笑)。

 頼まれて脚本を書くのと、自分が撮るので脚本を書くのとは違いますか。

 違いますね。頼まれている時は、監督さんに気に入ってもらいたいという思いもあるんです。監督作品、特に「少年メリケンサック」はゼロから自分でやっているので、DVDにして友達に配るだけで満足、ぐらいの感じがあります。

 すごくよく分かる。私、35枚目にして今、そういう心境になって。新作を暮れに仕上げて、「リリースされなくてもいいや」という。今までも、それなりのカタルシスを感じているからやり続けてるんだけど、ちょっと種類の違うもの。

 アルバムを作る時にコンセプト(基本理念)は決めるんですか。

 少し前までは、雑誌を作るような感じでアルバムを作ろうって思ってた。“その時”を切り取るっていう感じ。でも、インターネットなどが出てきて、情報が消費される速度が速くなった。雑誌も苦戦しているのだろうし、アルバムもそう。自分の中でシフトチェンジ(移行)しているところなの。

 締め切りとか、自分には厳しい方ですか。僕、仕事が早いって言われてた時、同じものしかできないんだったら早い方がいいかなと思ってた。早く自分の手を放したいという気持ちもあるんです。

 分かる。腐っちゃう感じがするのね。

 そうなんですよね。で、飽きちゃったら出すのも怖いし。だから、かえって、あまり自分を追い込まないんです。

多忙なのにヒット

 くどう・かんくろう 1970年生まれ、宮城県出身。91年から劇団「大人計画」に参加。映画「GO」、テレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」など数々の話題作の脚本を手がける。「グループ魂」のギタリストとしてNHK「紅白歌合戦」にも出場。

 こんなに多忙なのにかかわった作品がヒットするのはなぜですか。

 そう見えるだけで、ヒットしないものもあります。1年に1作品しか作らないけど必ずヒットさせるというより、いっぱい投げていれば三つぐらいは当たるだろうと思ってやっているので。

 多作だからそれでいいんですよ。

 去年、「流星の絆(きずな)」ってドラマで初めて褒められる視聴率を取ってびっくりしたんです。数字が悪いと、番組のプロデューサーと「こんなに面白いのになんでだろう」っていう話ができたんですけど、良かったらしゃべることなかった。もちろんうれしいんです。でも、報われちゃった時の寂しさも感じました。

 続けるしかなくなっちゃうのが落とし穴なんですよね。ちょっとだけ、ぼやきキャラだよね。

 お客さんと完全に折り合いがついちゃうのが怖いっていうのも。そうしたら、次をやる必要がなくなるんじゃないかって。

 オーバーグラウンド(世の中に受け入れられた)作品と時代との接点について何か思うことがありますか。

 王道なテーマをやっていても、無意識にど真ん中を歩かないようにしているのかもしれないです。逆に「少年メリケンサック」の場合、パンクってメジャーな音楽じゃないので、コア(マニア向け)な映画になり過ぎないようにしようというところもある。

 それがバランス感覚なんでしょうね。私は、王道が与えられたとしたら「ど真ん中を歩いてやろうじゃないか」ってタイプなんですよ。

 それができるようになったらいいなあとも思うんですけど。

 まあ、それはキャラの違いですからね。また面白い作品を見せて下さい。

 はい、ぜひ。ありがとうございます。

映画「少年メリケンサック」(14日から、全国東映系で公開)

 勘違いから、凶暴な中年パンクバンドの全国ツアーに同行することになった、がけっぷちのレコード会社員(宮崎あおい=写真右)の奮闘を描くコメディー。共演は佐藤浩市=同左=、木村祐一ら。


◇ ◇ ◇

 ユーミンの3年ぶり35枚目のオリジナルアルバム「そしてもう一度夢見るだろう」(EMI)の発売日が4月8日に決定。4月10日から33都市で、コンサートツアーも始まります。詳細は、ホームページ(http://yuming.co.jp)で。

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プロフィル
松任谷由実  (まつとうや・ゆみ)
シンガー・ソングライター。1972年デビュー。
「卒業写真」など、長年愛され続ける曲を世に送り出す。90年のアルバム「天国のドア」は、日本人初の200万枚超えの売り上げを記録した。「松任谷由実・オフィシャルサイト」はこちら

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/yumiyori/20090213yy01.htm