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2008年02月13日(水) 14時53分

橋下・大阪府知事、テレビは味方か敵か メディア戦略は朝日新聞

 新規事業はストップ。熱意のない者は去れ——。「テレビから生まれた」とも言われる橋下徹・大阪府知事(38)が、メディアを通じて刺激的な発信を続けている。13日で就任から1週間がすぎた。テレビ局側は「素材として面白い」「空気が読める」と期待を込め、府職員や府議会側からは「メディアを利用した『抵抗勢力』づくりでは」と警戒の声が上がる。周囲への波紋をよそに、橋下知事側はテレビとの向き合い方をまだ測りかねているようだ。

府立高校の授業の視察を終え、報道陣の取材を受ける橋下知事(右)=13日午前、大阪府東大阪市で

■局側 「きつい言葉、重宝」

 13日午前8時半すぎ、大阪府東大阪市の府立布施北高を視察に訪れた橋下知事を女子生徒が囲むと、その輪を約30人の報道陣が追いかけた。

 教室で、橋下知事は生徒たちに「人生で大切なのはあいさつ。テレビの仕事でもあいさつを大事にしていた」と語り、次の視察校に向かった。

 当選翌日の1月28日の後、スタジオ出演したのは3番組4回だが、ニュース以外の情報番組でも連日、知事の映像と主張が紹介されている。

 テレビから見て橋下知事の特徴はどこにあるのか。「手法がテレビ的で、取り上げやすい」というのは、毎日放送の午後の情報番組「ちちんぷいぷい」の中西正之ディレクターだ。「わかりやすい、きつい言葉を使い、財政削減に反対する人たちを抵抗勢力のように見せるところが小泉純一郎元総理に似ており、テレビの素材として面白い。番組に都合のいい時間で切りやすい」と言う。

 橋下知事は3日、立候補前にレギュラー出演していた読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」に出演した。

 番組の吉川秀和プロデューサーは橋下知事の魅力を「空気が読めて自分を笑いの対象にもできる。硬軟併せ持っているところ」と語る。

 そのうえで、「今後は『橋下さんが出ることイコール大阪の未来のビジョン』という形でキャラを引き出せれば」と話す。

 一方、橋下知事は8日にNHK大阪放送局の番組に出演した際、アナウンサーから「30分の遅刻」と言われたことに対し、対応が不適切だったとして「今後(NHKの)スタジオ収録に出演しない」と発言している。同局は「具体的に話し合いをする予定はまだないが、今後も必要があれば出演をお願いしたい」。

 8日夜、関西テレビで放送された「ムハハnoたかじん」。かつてレギュラーを務めた番組で、橋下知事はゲストとして平松邦夫・大阪市長と出演し、今後のテレビ出演について司会者から「月に1回どうですか」とふられると、「僕はありがたい」と笑顔で答えた。

 テレビ出演料や講演料などで年2億円以上稼いだとされる。今月2日、芸能プロダクション「タイタン」(東京)と話し合い、今後もマネジメントを引き受けることを確認した。

 だが、橋下知事の足元では、テレビとどう向き合っていくかまだ方針が定まっていない。

 タレント知事として先輩格となる宮崎県の東国原英夫知事は、就任から1年間でテレビ・ラジオ合わせて約450本の番組に出演。うち約200本は出演料の発生しない知事の「公務」で、残りが政治家としての「政務」扱い。政務の場合は局から謝礼金をもらっているが、タレント時代の10分の1以下の1回3万〜5万円程度という。

 タイタンの太田光代社長は言う。「大阪のPRという点でテレビ出演は有効だが、出演の仕方によっては遊んでいるようにしかみられず、誤解を与えかねない怖さがある。慎重に見極めたい」

■府職員・議会 「反対しにくい」

 「僕と一緒に死んでもらう覚悟で、最後は死んで下さい」「大阪は破産状態、民間なら給料が半分に減るなんて当たり前」。初登庁の6日、橋下知事は職員に訴え、この言葉が何度もメディアで取り上げられた。

 職員には警戒心が募る。ある幹部職員は「具体的な政策を示す前に、いきなり死ねと言われても。横山ノックさんには人情を感じたが、橋下さんにはまだ……」と戸惑い、「府の給与は全国でも最低水準だが、削減にはもう誰も反対できない雰囲気がすでにつくられている」と言う。

 橋下知事が繰り出す発言に対し、府議会も警戒心が強い。

 選挙で橋下知事を支えた自民党府議団の浅田均副幹事長は「『私はこうしたい』と発信し、次に『183万票の府民に選ばれた』とくれば、反対するものは抵抗勢力という図式が作られる」と危惧(きぐ)し、公明党の府議も「反対すれば、議会が『悪者』になりかねない」と心配する。 アサヒ・コムトップへ

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