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2008年02月09日(土) 03時23分

駅弁、駅で売れない? デパートの催事で人気に火朝日新聞

 駅弁がちょっとしたブームになっている。火付け役となったのは、電車の中づり広告や新聞の折り込みチラシなどでよく目にするデパートの催事だ。「全国駅弁大会」「全国 有名駅弁とうまいもんまつり」などなど。駅で売るより催事での販売個数が断然多い駅弁もあるというが、実態はどうなのか。駅弁は駅じゃ売れないのか。

福岡健一さんオススメの駅弁

今年の「駅弁の甲子園」。いかめしのブースには行列ができた=京王百貨店新宿店で

 毎年恒例の「駅弁の甲子園」が1月、京王百貨店新宿店であった。各地の駅弁がずらりと並ぶ中、お客の列が絶えない売り場があった。

 北海道の「いかめし」だ。ベテラン職人がイカの胴体の中に、生のコメをどんどん詰める。無駄な動きがない。13日間の会期中、売り上げ個数は1位。71年から続く連勝記録は38になった。

 駅弁の甲子園は66年に始まった。正式名称は元祖有名駅弁と全国うまいもの大会。担当者は「この2年、開催時の来店者数が増えている。最近の鉄道人気の影響で、駅弁もブームですね」。

 過去43回のうち、いかめしは40回、1位を記録している。今年の個数は集計中だが、昨年は5万8000個以上が売れ、2位の「牛肉どまん中」(山形・米沢駅)に2万5000個の差をつけた。一昨年も2位の「たらば寿し」(北海道・釧路駅)より4万個ほど多かった。

 いかめしの常勝理由について、京王百貨店は「調理実演する従業員の熟練度」を挙げる。少ない具を単純な調理法で手際よく作り続ける。お客が集中しても在庫を切らさず、待たせない。駅売りと違い、商品はできたてのほかほかだ。

 駅弁の甲子園に出品される駅弁は約200種。そのうち調理実演をして販売をするのは30種ほどだ。知名度のある「峠の釜めし」(群馬・横川駅)や「ますのすし」(富山駅)などは商品を会社から運んで来るため、販売個数に限界がある。

 千円前後の弁当が多い中、ワンコインで買える470円という価格設定も強みだ。複数個をまとめ買いしたり、他の駅弁のついでに買ったりするケースもある。

 いかめしの本拠地、内浦湾を望むJR函館線の森駅を訪ねた。

 1日に止まる列車は50本で、乗降客は約660人。いかめしを探すと、改札を出て左手のキヨスクにあった。「夏は1日に200〜300箱は売れるけど、冬は20箱ぐらい」と店の女性。

 駅のそばに製造元の「いかめし阿部商店」の工場があった。煮詰まったしょうゆとザラメの香りが漂う。従業員の女性2人は、イカにコメを詰める手を休めずに「デパートでは、目が回るほど忙しいんだけどね」。

 今井俊治社長(59)によると、同社の年間売り上げの95%以上が、デパートでの成果だ。1年で約150カ所、延べ300回ほどの催事に出る。10人いる従業員もスーツケースを持って各地を転々とし、出張が3カ月に及ぶこともあるという。

 今井社長は「駅弁でなく『デパ弁』と言われてもしょうがないかもね」と言いつつ力を込めた。

 「デパートで売れるのも本当に駅で売っているから。どんなに個数が少なくても森駅で売り続けますよ」

■停車駅減り、業者半数以下

 ネット上で「駅弁資料館」を運営し、2500種に上る駅弁を食べてきた横浜市の鉄道愛好家、福岡健一さん(34)は、駅弁の催事に好意的だ。

 「催事がなければ駅弁は忘れられていく運命だった。催事での販売は駅弁が後世に残っていく一つの形態です」

 全国のJR駅構内で弁当を販売している業者の団体「日本鉄道構内営業中央会」の山内一夫事務局長によると、会員企業は87年度の372社をピークに減少の一途をたどり、現在は半数以下の150社になった。

 理由として山内さんは電車の高速化を挙げる。停車駅は減り、車両の窓は開かなくなった。苦境に陥り、駅売りから撤退した業者は少なくないという。「旅とは、車窓の景色とともに地元の味を駅弁で楽しむものだったのに、寂しいですね」

 そんな中にも光明はある。テレビの企画やデパートの催事がきっかけで誕生した後、地元の駅で売られて立派に生き残る「駅弁」が出てきた。

 山梨・小淵沢駅の「元気甲斐(げんきかい)」は85年、民放テレビ局の企画から誕生。仙台駅の「独眼竜政宗辨當(べんとう)」は、NHKの大河ドラマ「独眼竜政宗」の87年放映開始が決まったことを受け、前年から販売が始まった。

 05年の「駅弁の甲子園」で企画、販売された「摩周の豚丼」は現在も北海道・摩周駅で売られている。観光や地域振興の希望の星として紹介されることもあるという。

 福岡さんは「駅弁には新陳代謝も必要だ」と指摘する。「既存の駅弁や駅弁会社に良い刺激を与えるため、ニューカマーが適度に現れてほしい」 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/life/update/0209/TKY200802080505.html