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2008年02月08日(金) 10時08分

住宅開発予定地の愛宕山周辺 住民「米軍の街」に不安 事業失策絡み曲折も西日本新聞

 10日に投開票を迎える山口県岩国市長選。米軍岩国基地への艦載機移転が最大の争点だが、移転に伴う米軍住宅建設問題もまた、選挙戦に複雑な影を落とす。建設が取りざたされる愛宕山周辺住民は「軍の街になる」と反対するが、住宅を拒否すれば市は広大な空き地と多額の赤字を抱えることになる。立候補した2氏は問題への対応を迫られるが、明解な解決策は示せないままだ。

 市中心部から車で約20分。閑静な一戸建て住宅街が途切れると、突然山の中腹を水平に切り取る形で開発された60ヘクタールの巨大造成地が現れた。今もダンプが行き来するが、建物をつくる気配はない。

 「米軍住宅建設反対」。造成地から50メートル離れた牛野谷町に住む主婦の福田雅美さん(46)は、横断幕を掲げた住民の1人だ。「米兵が付近にあふれると不安で子どもを外で遊ばせられない」と、不安を隠さない。

 造成地の米軍住宅転用話には、地元行政の失策も絡む。もともと愛宕山開発は岩国基地滑走路の沖合移設に使う埋め立て用土砂の供給と、大規模な宅地造成を目的に始まった。ところが住宅需要の見通しが狂い、造成は中止。事業の責任を負う山口県と岩国市は、251億円の赤字をかぶることになった。

 弱った両県市は、国に造成地の大部分の買い取りを要請。国は昨年、米軍再編に伴う住宅建設の「有力候補地」として買い取りに前向き姿勢を示した。入居する米軍の艦載機関係者は、最大5000人ともいわれる。

 艦載機移転容認派の新人、福田良彦氏(37)は、米軍住宅について「基地周辺を含めていろいろな場所を検討する」と主張。愛宕山造成地を基地周辺の住民向けに転用する考えもあるというが、実現の見通しは不透明だ。

 一方、移転反対派の前職、井原勝介氏(57)は「米軍再編自体を容認する状態でなく、建設は考えられない」と述べ、建設自体に真っ向から反対する。しかしそうなると国が造成地買い取りを拒否する可能性が高く、市の赤字縮小は厳しくなる。

 「孫の代まで米軍の街になってしまうかどうかの大きな問題。住民の生活と治安を守ってほしい」と、福田さんら住民は訴える。どちらが当選しても、愛宕山問題は曲折が予想される。(地域報道センター・稲葉光昭)

=2008/02/08付 西日本新聞朝刊=

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080208-00000000-nnp-l35