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2008年02月05日(火) 01時47分

地上デジタル 番組の保護と利便性が大切だ(2月5日付・読売社説)読売新聞

 地上デジタル放送への移行に向けて、また難題だ。

 番組の録画とコピーが厳しく制限されている地上デジタル放送で、この制限をくぐり抜ける装置が出回り始めた。

 台湾製でインターネットを経由して販売されている。この装置で番組を受信してパソコンに保存すれば、DVDなどに何度でもコピーすることができる。

 地上デジタル放送は、著作権保護のため受信できる機器を限定しており、正規の機器で受信した番組は、1回だけしかコピーできない。

 この制限は、デジタル技術なら、画質や音質を保った完全な複製ができるためだ。これがインターネットなどに出回れば、放送局が番組をDVD化して販売するなどの二次利用が大打撃を被る。

 従来のアナログ放送なら、コピーを繰り返すと、ぼやけていく。だから、あえて制限は必要なかった。

 台湾の装置は非正規品だが、現在の著作権法などで直ちに規制できるか、政府も判断は難しいという。このため総務省が専門家による検討を始めた。

 2011年には、アナログ放送から地上デジタル放送へ完全移行する予定だ。デジタル化により電波を効率利用し、新たに空いた周波数帯を携帯電話などに転用する。公的な意義は大きい。

 だが、これにより、著作者らが不当な損害を被ることがあってはならない。著作権保護の対策が重要だ。

 こうした抜け道が放置されると、視聴者は正規の録画装置を買い控えるなど機器の販売にも影響は及ぶ。

 録画装置については、ただでさえ、コピー回数の制限を緩和して、1回から10回に増やす「ダビング10」の実施に向けて火種がくすぶっている。

 昨年11月、コピー制限緩和で合意した際、著作者団体は、その分の補償金を得られると考えていた。だが、録画装置を製造する電気機器業界が支払いを拒否した。コピー回数が増えても、制限が残るなら補償は不要と言う。

 すでにダビング10に対応した録画機器の販売は始まっている。コピー制限の緩和も、今年6月には始まる予定だ。しかし、著作者側には、このままでは緩和すべきでない、との強硬意見もある。

 間に立つ文化庁は、両者に歩み寄りを求めているが、決着していない。

 ダビング10は、コピー1回ではあまりに不便という視聴者からの強い要望で決まったことだ。頓挫すれば、地上デジタル普及にとって痛手となる。

 視聴者の期待を裏切る事態にならないよう、真摯(しんし)に話し合うべきだ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080205-OYT1T00066.htm