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2008年02月03日(日) 01時19分

ホテル使用拒否 司法をないがしろにする行為だ(2月3日付・読売社説)読売新聞

 司法の判断に従わなくとも構わないという理屈がまかり通れば、社会が成り立たない。

 日本教職員組合の教育研究全国集会(教研集会)が都内で始まったが、全体集会が中止になった。会場になるはずだったホテルが「日教組の予約は解約した」と主張し、使用を拒んだからだ。

 東京地裁、東京高裁は、「解約は無効で、使用させなければならない」と命じたが、ホテルはこれに従わなかった。

 日教組が毎年1回開く教研集会には、2000〜3000人が参加する。1951年から57回に及ぶ教研集会で、全体集会の中止は初めてだ。

 裁判所が認定した事実によると、日教組は昨年3月、グランドプリンスホテル新高輪に会場の使用を申し込んだ。その際、例年、教研集会の会場周辺では右翼団体の街宣活動があり、警察に警備を要請していることも伝えた。契約後、日教組は会場費の半額を支払った。

 ところが、11月になってホテル側が突然、解約を伝えた。

 ホテルが契約後、過去の例を独自に調べた結果、100台を超す街宣車の拡声機による騒音や大規模警備で、他の利用者や住民に多大な迷惑をかけることが分かったため、というのが理由だ。

 だが、ホテルが右翼団体による妨害を恐れ、筋の通らない理屈で解約を正当化してまで集会を中止させれば、右翼団体の思うつぼである。

 裁判所が指摘したように、ホテルは日教組や警察と十分打ち合わせ、混乱を防ぐ努力をすべきだったのではないか。

 ホテルが今回、恐れたのは右翼だったが、左翼側の“威圧”で講演会の主催者が講演を中止した例も少なくない。

 1992年に、評論家の上坂冬子さんが月刊誌で憲法改正に言及したとする社会党(当時)などの抗議で、新潟市主催の憲法記念集会での講演が中止となった。97年には、ジャーナリストの櫻井よしこさんも、「従軍慰安婦」問題での発言を巡り、「人権」を掲げる団体の抗議で主催団体が講演を取りやめた。

 異なる立場の意見でも、発言する自由を最大限認めるのが、民主主義社会である。憲法で保障された「集会の自由」「表現の自由」が脅かされてはならない。

 ホテル側は、「極めて短時間で十分な審理、理解を得られないままなされたもので、大変残念」としている。

 だが、ホテル側は裁判の係争中なのに、会場には既に別の客の予約を入れていた。司法をないがしろにする行為は許されまい。一流ホテルには、それにふさわしい社会的責任が求められる。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080202-OYT1T00729.htm