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2008年02月02日(土) 03時11分

ギョーザ袋の穴、いつどこで 被害家族「気味が悪い」朝日新聞

 冷凍ギョーザになぜ、毒性の強いメタミドホスが入っていたのか。ナゾが深まるなか、日中双方の捜査当局から1日、犯罪であることをうかがわせるようなデータが出てきた。兵庫県警は、同県で中毒を引き起こしたギョーザのパッケージに、めったに開くことのない小さな穴があったと発表。中国当局は「外から工場に持ち込まれた可能性が強まった」と見立てた。一方で、千葉県の中毒ではパッケージに穴はない。穴と毒は関係があるのか、ないのか。

兵庫県高砂市で有機リン系農薬の成分が検出された、ジェイティフーズの「ひとくち餃子」のパッケージ。左下に穴が開いている=厚生労働省のホームページから

一般家庭から宅配便で返品された商品を確認するJTの従業員=1日午後、茨城県境町で

 兵庫県警が穴の存在に気がついたのは1月31日の夜のことだった。ジェイティフーズが輸入した中国製冷凍ギョーザのパッケージの任意提出を受けた高砂署での目視では穴は確認できず、同日夜に再度、県警科学捜査研究所が精密検査をした際にわかったという。

 「驚いた」。ギョーザを食べた兵庫県高砂市の自営業男性(51)の妻(47)は、パッケージに穴が開いていたことを報道機関からの問い合わせで知った。

 昨年12月中旬、同県加古川市の「イトーヨーカドー加古川店」で高校3年の次男(18)が最初にこの商品を手に取った。「特に注意を払わず、かごに入れた」という。同月下旬に次男が1人で開封し、手前の5個だけ調理して食べたが異変はなかった。残りを1月5日に男性と妻、次男が食べて中毒症状が出るまで、冷凍庫に保管していた。調理した妻は「パッケージを傷つけたりするようなことはしなかった。(周辺で)トラブルも思い当たらないし、穴は最初から開いていたのだと思う。誰かが故意に薬物を入れたのだとしたら気味が悪い。余計に恐怖感が増した」と表情を曇らせた。

 ジェイティフーズの親会社である日本たばこ産業は、袋に見つかった穴について「3ミリ大で、トレーにもあったとすれば、製造工程でできたとは考えにくい」と話す。ただ、冷凍ギョーザなので皮の角などが相当堅くなる。「流通過程で揺すられたりすれば、角が当たって穴が開くこともありうる」。実際、今年度のクレーム情報を調べたところ、天洋食品製造の業務用商品でパッケージに穴が開いていたケースが1件だけあって卸先から回収していた。0.2ミリの穴が二つあったという。

 一方、1日午前に兵庫県警から「穴」の存在を知らされた警察庁は、千葉県警にも確認を求めた。だが、同県で二つの中毒事件を引き起こしたギョーザのパッケージに穴や傷はなかったという。

 問題のギョーザのパッケージを製造したのは、日本の包装資材メーカー、東タイ(東京都)の子会社「東洋制袋(蘇州)有限公司」(中国)だ。東タイによると、袋はポリプロピレン製で厚さ約0.05ミリ。170度の高温や圧力に耐えられる2層構造で、製造工程や輸送の際に穴が開くトラブルもなかったといい、「意図的な力が外から加わったためではないか」とみる。

 公司は95年の設立で、天洋食品とは1、2年前からの取引という。パッケージの製造に携わる従業員は工場内では白衣や手袋を着用しており、「つめや身につけたピンで袋を傷つけることはあり得ない」。06年には日本の包装業界団体が設けた工場の衛生基準を、各社の海外工場で初めてクリアした模範的な施設だという。

 東タイの大出光専務は「袋の欠陥は考えられない。早く原因が明らかになってほしい」と当惑するばかりだ。

 ●「健康被害」相談相次ぐ

 中国製冷凍ギョーザ中毒の被害は広がるのか——。全国の保健所などには体調不良を訴える相談が相次いでいるが、1日午後9時現在、千葉県と兵庫県の10人以外は事件との因果関係は確認されていない。

 厚生労働省は1日、中国製冷凍ギョーザを食べたことによる健康被害の相談などが23都道府県で440件あったとの集計結果をまとめた。

 同省は先月30日、中国製冷凍ギョーザに関係する健康被害を自治体に情報提供するよう求めたが、回答項目などを示さず、報告内容を自治体任せにしていた。回答してこなかった自治体もあったため、1日、問題となった薬物中毒の症状の有無や、医療機関への受診や入院の有無、人数などを定期的に報告するよう、全国の保健所を所管する130自治体に改めて通知した。

 全国の保健所などには、明らかに事件と無関係の相談も寄せられている。大阪府内のある保健所の窓口には、1日夕までに電話が5件あったが、うち3件は今後の食生活についての相談だった。ほかの2件は下痢の症状の訴えだったが、1件は国内製の冷凍うどんについてで、もう1件は商品が特定できないという。

 この担当者は「今の季節はノロウイルスによる食中毒が多い。潜伏期間が24〜48時間あるので、たまたま冷凍食品を食べた直後に発症した可能性も十分ある」と話す。

 専門家は、有機リン中毒の診断の難しさを指摘する。中毒の救急対応に詳しい佐賀大医学部の奥村徹教授によると、有機リン中毒の症状には嘔吐(おうと)や下痢があり、腸炎や通常の食中毒との区別が難しい。特有の症状として瞳孔の縮小があり、血中コリンエステラーゼ活性の低下で診断はつくものの、症状からみて血液検査は不要とすることも多いという。

 「通常、有機リン中毒は農薬の誤飲や自殺のケースがほとんどで、本人に飲んだ意識が全くないケースはまずない。患者の容体をみた医師に、ただちに有機リン中毒を疑うことを期待するのは難しいだろう」と話す。

 1万3000人以上の発症者を出した00年の雪印乳業の乳製品による集団食中毒事件で、被害者弁護団長を務めた田中厚弁護士(大阪弁護士会)は「今回のように被害報告が全国に及ぶ場合、国が何らかの基準をつくり、自治体だけでなく、事業者からも適切な被害情報を吸いあげる必要がある」と指摘する。

   ◇

【回収に関する問い合わせ先電話の一覧】(順不同)

■日本生活協同組合連合会=0120・55・6950

■ジェイティフーズ=0120・70・0642

■味の素冷凍食品=0120・30・3010

■マルハ=0120・17・0811

■加ト吉=0120・08・7578

■江崎グリコ=0120・91・7111

■カネテツデリカフーズ=0120・22・7379

■ジオラ=0120・04・1163

■紀文食品=0120・01・2778 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0201/TKY200802010367.html