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2008年02月01日(金) 07時06分

2月1日付 編集手帳読売新聞

 以前、京都を旅した折、古今のめずらしい箸(はし)を集めた小さな資料館を訪ねたことがある。中国のものという銀製の箸もあった。いわゆる“毒味箸(どくみばし)”である◆ヒ素などと反応して瞬時に変色することから、古く中国では毒殺を恐れる権力者が銀の箸を用いたとは聞いていたが、実物を初めて見た。食卓という心くつろぐ場所でも警戒心を解くことのできない身分に、同情したおぼえがある◆いまはもう、昔の権力者を気の毒がる心境にない。農薬の混入した中国製の冷凍ギョーザを食べ、千葉、兵庫両県で3家族10人が中毒を起こした。5歳の女児は一時、意識不明に陥っている。消費者は「メード・イン・チャイナ」専用の毒味箸が欲しいだろう◆安いからと、命と引き換えに買う消費者はいない。問題の冷凍ギョーザを製造した企業に限らず、食の安全に無頓着でいればいずれ、中国製は日本の食卓から消えるだろう◆昨年末に最初の被害が出てから、公表まで1か月がすぎている。銀の箸が瞬時に変色するように、行政の担当者も一報に顔色を変えて対処したか、どうか。その検証も要る◆いまの世の毒味箸は、人の目をおいてほかにない。製造する者、輸入する者、販売する者、それぞれが品質に凝らす目と、行政が異変に凝らす目と、二本の視線がそろってこその箸一膳(いちぜん)である。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/column1/news/20080131-OYT1T00795.htm