2008年01月31日(木) 13時11分
ネット心中直前で“引き返した”男性（3）──最期の「仲間」が決まるまでの話し合い（オーマイニュース）
「（自殺系サイトの掲示板では、心中仲間に対し）いろいろな希望を書く人がいます。男がいいだの、女がいいだの。その中でも、『未成年はお断りします』という内容が多かったですね。なぜかはわかりませんが」
自殺系サイトにアクセスし、10人ほどと連絡を取っていた50代の会社員O氏は、様々な人と会うなかで、「田中」と名乗る住所不定の男性（44）に信頼を寄せていった。それは自殺仲間として以上のもので、「もし、人生の違う場面で会っていれば、同じ仕事をしたい」と思わせるほどの感情だった。
初めて会った夜、居酒屋で飲んだ。そこで「田中」は、自殺の話だけでなく、大手企業に勤めていたが独立したこと、実家との関係がよくないこと── などを話していた、とO氏はいう。このとき、「田中」は川崎市内に住んでいると語っていたらしいが、亡くなった後の新聞報道では住所不定になっていた。「事務所が川崎市内にあって、そこに寝泊まりしていたのかも」とO氏は振り返る。
O氏と「田中」はその夜、居酒屋を2軒はしごした。それだけ2人の話は盛り上がったのだろう。帰宅後、「田中」はO氏にメールをした。
＜こんな楽しい時間は久しぶりだった＞
こうしたメールをするくらいだから、死への決意が揺らいだ可能性はなかったのだろうか、と私は思ったが、同じメールの中に、＜一緒に決行したい＞との文字もあったという。
楽しい時間を過ごすことができた、その相手と一緒に自殺をしたい、と思うのは、「せめて最後は、信頼できる相手と死にたい」という感情なのだろうか。仮にそうであれば、それは「最後は信頼できるメンバーと過ごしたい」というO氏の思いと共通する。
O 氏は「最期のメンバー」を探すのと同時並行で、必要な「道具」の入手も進めていた。まず都内の開業医（内科）に行って、睡眠薬（マイスリー）を処方してもらった。また、メンバーとの打ち合わせに名古屋を訪れたとき、名古屋の開業医に立ち寄り、都内の開業医に処方された薬を見せて、こう告げた。
「眠れないのだが、これでは効かないので、もう少し強い薬を出してほしい」
すると、この開業医はあっさり、さらに強い薬をくれたという（O氏に薬の名前を尋ねたが、「名前は気にしてなかったため、覚えていない」と答えた）。
名古屋では、それまでにO氏が話をした6人と会い、計7人で打ち合わせをした（12月12日）。方法や場所を検討して、一旦解散。この時点で決行は3日後の「2007年12月15日以降」とO氏は考えていた。一晩は連絡を取らずに、翌日になって各自の考えで集合しようとすると、最短で12月15日になるだろうと推測したのだ。
そのうち、出会った中の1人から、
＜1人で決行する＞
とのメールが届いた。私が過去に取材した事例でも、1度話し合って「一緒に決行する」と考えたものの、約束の日程まで自殺衝動を抑えきれずに、1人で決行したケースがあった。この場合も同じような心理だったのだろうか。
ただ、この状況でも、O氏が連絡を取りあっていた候補者は入り乱れる。そして、先の＜1人で決行する＞とメールで伝えてきた人が抜け、参加希望者は最大6人となっていた。O氏と「田中」、もうひとり都内在住の男の「都内組」3人と、車を持つ名古屋男ともうひとりの名古屋人の「名古屋組」2人、それに大阪の女性──の計6人だった。
翌12月13日朝。O氏は東京・新宿のネットカフェから、名古屋のホテルを予約した。名古屋組2人と大阪の女性が14日に打ち合わせできるように段取ったのだ。O氏はこのとき、都内在住の男性と一緒にネットカフェに入ったが、これが人生初のネットカフェ体験だった。
ところが、すでに述べたように、車を持つ名古屋男が心変わりし、結局、「名古屋組」の2人が離脱した。そのため、大阪の女性は急きょ、「都内組」3人に合流することになった。
14日朝、O氏、「田中」、都内在住の男、大阪の女性の計4人が打ち合わせ場所の新宿にやってきた。名古屋組2人の離脱にやや動揺しながら、いつ、どこで決行するかを話し合おうとしていた。
ところが、都内の男性は、翌15日朝には死を迎える決心で家を出て、新宿に来ていた。体に障害を持つ彼は家族が終始監視しているため、行方不明となる時間をなるべく短くしたいと考えていたからだ。
「決行日が曖昧な以上、きょうはとりあえず仕事に行く」
都内の男性はそう言って、O氏らと別れた。そして、「最期のメンバー」はO氏と「田中」、大阪の女性の3人となった。
（つづく）
（記者：渋井 哲也）
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