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2008年01月27日(日) 01時34分

ウイルス犯摘発 作成者を罰する法律が必要だ(1月27日付・読売社説)読売新聞

 コンピューターウイルスの作成者を直接罰する法律がない、という日本の深刻な現状を浮き彫りにした事件だ。

 京都府警が、コンピューターウイルスを作成した24歳の男子大学院生を逮捕した。ウイルス作成者の摘発は国内初という。

 容疑は、ウイルスにもコンピューターにも関係のない「著作権法違反」だ。問題のウイルスがパソコンに感染してデータを壊す際、人気アニメの画像を無断で表示する点に着目した。

 刑法には、ウイルスを取り締まる「電子計算機損壊等業務妨害罪」がある。ウイルスを作成し、他人のコンピューターに感染させてデータを壊して業務妨害した際に適用される。

 だが、作成と配布だけでは、この罪に問うことができない。京都府警の捜査でも、業務妨害などの事実をつかむことはできず、適用を断念した。

 今回は、なんとか著作権法違反に持ち込めたが、実のところ、ウイルス作成は野放し、ということになる。

 法制度を早急に整える必要がある。

 政府は、2001年に、コンピューター犯罪対策を国際協力で強化する「サイバー犯罪条約」に署名している。04年には、ウイルス作成を罰する刑法改正案などを国会に提出している。

 ところが、組織犯罪を計画段階で取り締まる「共謀罪」が併せて法案に盛り込まれたことに、野党が「定義があいまい」などと反発し、継続審議となった。

 いつまで棚上げにしておくのか。インターネットを通じたウイルスの蔓延(まんえん)は近年、深刻さを増している。実態を踏まえた論議を始めるべきだ。

 最近の大規模被害としてはエストニアの例がある。同国はネットを活用した電子政府化に積極的だが、昨年4月、政府機関や銀行のコンピューターやネットに接続障害などの混乱が広がった。

 異常な信号を大量送信するウイルスが原因とされる。このウイルスに感染した世界中のコンピューターが、同国のコンピューターを標的に一斉に動いた。混乱は3週間にわたった。

 日本でも近年、日本銀行や外務省などのコンピューターが同様の被害に遭っている。組織的な「サイバーテロ」という指摘もある。ウイルス作成が取り締まれないままでは、対策は進まず、国の安全保障が脅かされかねない。

 ウイルス被害の政府機関への届け出件数は、対策ソフトの導入などが奏功して減少した。だが、その陰で、甚大な被害を狙ったウイルスが、次々に出現していることを忘れてはならない。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080127-OYT1T00029.htm