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2008年01月25日(金) 22時42分

秋田連続児童殺害 検察側論告求刑と弁護側最終弁論要旨朝日新聞

 秋田連続児童殺害事件で26日、秋田地裁で開かれた公判で、殺人と死体遺棄の罪に問われた畠山鈴香被告(34)に対する検察側論告求刑の要旨は次の通り。

 【事実関係】

 ●彩香さん事件

 離婚の際、元夫への意地から引き取った彩香さんに愛情を感じることができず、疎ましいと思っていた。05年ごろ、自己の性格に起因する人間関係の破綻(はたん)から日常的な不満を高め、矛先を彩香さんに向けた結果、いらだちや嫌悪の念を極限まで募らせ、確定的殺意のもと、欄干から突き落として殺害した。

 ●豪憲君事件

 彩香さん殺害を隠蔽(いんぺい)するため、警察、マスコミ、近隣住民らに彩香さんの死の事件性を訴えた。周囲は好意的な対応をせず、自分が彩香さんを殺害したと正しく指摘するうわさに不満を抱き、社会に対する八つ当たり的な怒りや憎悪を募らせた。たまたま自宅前を通り掛かった豪憲君を殺害し、社会に小児殺人の脅威を与えることで復讐(ふくしゅう)心を満たし、自己への嫌疑をそらす意図で計画的に犯行に及んだ。

 【情状関係】

 動機に酌量の余地はなく、態様は冷酷非道で残虐。遺族らの悲嘆の深さは察するに余りあり、処罰感情は峻烈(しゅんれつ)で、極刑を切望するのは当然だ。

 罪証隠滅工作を重ね、彩香さん殺害は否認、豪憲君殺害・死体遺棄も計画性や殺意の発生時期を否認。豪憲君の遺族らに反省の言葉を述べる一方、陰では「まだ2人の子どもが残っているのにどうして怒るのかわからない」と述べるなど、真摯(しんし)な反省・悔悟の念は見られない。

 一連の犯行は被告の反社会的な人格性向に根ざしており、矯正は不可能。地域社会に恐怖感・不安感を与え、多くの住民に精神的な打撃を与えた被害も軽視できず、社会的影響は甚大だ。

 【求刑】

 死刑を選択するほかない。彩香さん殺害は計画性が認めがたく、豪憲君殺害も明確な殺害計画をもって周到に準備したとまではいえないが、死刑回避相当の事情と評価することはできない。

 内省を深めているとは認められない。成育環境は特に劣悪だったとは認められない。反社会的・犯罪的性向も軽視できない。極刑をもって臨む以外にない。

   ◇  ◇

 一方、弁護側の最終弁論の要旨は次の通り。

 【事実関係】

 ●彩香さん事件

 彩香さんへの養育でネグレクトの事実は見あたらず、殺意に発展するようなものはなかった。悩みは抱えていたが、親友や家族が相談相手になっていた。

 事件当時、「魚が見たい」とだだをこねる彩香さんが意に反して欄干に上った。不意に振り向いた彩香さんを「こわい」と瞬間的に振り払った。肌に触れることに対し「スキンシップ障害」があった。殺意はなく、あくまで過失だった。

 転落という予期せぬ事態でショックを受け、前後のことを健忘した。自宅に帰って彩香さんを捜したり、その時の説明が曖昧(あいまい)だったりしたのは混乱していたからだ。隠蔽(いんぺい)工作ではない。

 ●豪憲君事件

 彩香さんの死を事故と判断した警察に再捜査を求めたが取り合わず、事件を起こせば注目されると考えた。たまたま、通りかかった豪憲君を自宅に招き入れ、「事件を起こすなら今しかない」と追いつめられ豪憲君を殺害した。人目につく時間帯の犯行で、遺体を遺棄する場所も場当たり的で計画性はない。

 責任能力の見方は判断者のとらえ方で違うので、慎重に判断しなければならない。

 警察の怠慢と言える捜査がなければ、豪憲君事件は起こされなかった。

 【自白の任意性】

 豪憲君の死体遺棄容疑で逮捕されて以来の長時間で過酷な取り調べがあり、肉体的、精神的に追い込まれた。そのうえ取調官に「ばかやろう」などと怒鳴られ、警察や検察の言われるがままに彩香さん殺害の供述調書を取られた。任意性に欠けており、証拠能力がない。

 【情状関係】

 彩香さん転落の結果は重大だが、反射的なもので計画的でない。彩香さんの死を悔いる内容の反省文も書き続けている。

 豪憲君事件の犯行に計画性はなく、遺族に手紙を書くなど反省もしている。鑑定医に対する日記で豪憲君の遺族に対して暴言を書いたが、長い勾留(こうりゅう)による衝動的で一過性のものだ。

 【量刑】

 公判で死刑を求める発言をしたが、謝罪と更生を放棄したわけではない。有期の懲役刑を求める。 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0125/TKY200801250320.html