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2008年01月19日(土) 13時15分

「不利益」情報は極小文字…… 携帯広告に公取委が警告朝日新聞

 宣伝文句は100ポイント超の極太文字で、消費者が不利益を被る恐れのある情報は5ポイントと虫の足跡のような小ささで……。携帯電話の宣伝広告をめぐり、大手各社が公正取引委員会から景品表示法違反の疑いがあるとして警告を受けた。業界の自主努力で本当に改善されるのだろうか。

 公取委は昨年11月、NTTドコモとKDDIに景品表示法違反のおそれがあるとして警告を出した。宣伝チラシの中で、消費者の購買意欲を引き出す情報だけが大きく、他社よりも有利なサービスであるかのように誤認させると指摘した。

 ドコモは、基本使用料について「みんないきなり半額に!」と約100〜200ポイント(3.5〜7.0センチ四方)の文字で記す一方で、約1万円の解約金については約5ポイント(1.8ミリ四方)で表記していた。KDDIも「誰でもいきなり半額」と約80〜150ポイント(2.8〜5.3センチ四方)で訴えながら、契約解除料の説明文は約5ポイントだった。

 公取委幹部は「消費者に必要な情報を伝えるという視点が完全に欠如している」。これに対し、ドコモやKDDIの担当者は「広告として訴えたい内容と、書かなくてはいけない情報の両方を限られた紙面に盛り込んでいる」と口をそろえる。

 だが、割引条件などはチラシに書いてあっても読みづらい。実際、携帯電話などの広告に関して全国の消費生活センターに届く相談・苦情は増えている。03年度は65件だったが、05年度は105件。07年度は既に260件を超えた。

 「広告を見て料金が半額になると思って契約変更したが、100円しか安くならなかった」と、割引の条件面を十分に理解できないまま契約するケースもあったようだ。

 日本広告審査機構にも昨年11〜12月に苦情や問い合わせが33件寄せられ、大半は「割引条件が虫眼鏡で見ないと分からない」といった料金関係だった。

 奈良県の男性(66)は「半額を強調しすぎだ」と憤る。宣伝文句を見て販売店へ足を運び、説明を聞いて初めて条件があると認識したという。

 こうした中、業界も対策に乗り出している。

 ドコモは、社内の13部門の部課長に主任クラスを加えた計26人のプロジェクトチームを設置。昨年末に「割引の条件など重要事項は8ポイント以上とする」「注釈部分は、訴えたい部分の10分の1以上の大きさにする」など社内ルールの第1次案をまとめた。3月末までにルールを固める方針だ。

 KDDIも、A4サイズのチラシ類の消費者向けの情報を8ポイント以上で表記すると決めた。5ポイントなど小さな文字で消費者向けの情報を記したチラシは、3月末には店頭から消える見通しだという。

 06年12月、「通話料0円」の新聞広告などで公取委の警告を受けたソフトバンクモバイルもチラシなど広告全般を改善。総合カタログは、パケット通信料割引の「対象外となる利用」について、文字の色を黒から赤に変え、サイズを4ポイントから5.5ポイントに大きくした。

 同社は「注釈は重要だが、アピールしたい内容が伝わらないと意味がない。どこまでの表現が許されるのか、悩みながらやっている」ともらす。

 業界団体の電気通信サービス向上推進協議会は、広告表示の自主ルールを設けているが、チラシ類は「判読できる大きさで表示する」との規定しかない。公取委幹部は「業界内だけに通じる我田引水的なルールでは意味がない」と批判する。

 同協議会が07年6月に自主ルールを改訂した際、公取委が認定して法的な効力を持つ「公正競争規約」を新たに作ろうという声も上がった。

 しかし、ドコモやKDDIが難色を示し、実現しなかったという。業界の監督官庁は総務省。ある関係者は「経産省が影響を持つ公取委に従うよりも、総務省の顔色を見なくては」とその事情を明かした。

 携帯電話大手が毎月発行する総合カタログ。ある社の1月号を開き、記者が文字の大きさを測ってみた。「みんないきなり基本使用料、半額に!」との文言は約60ポイント(2センチ四方)。その下の解約金の説明文はやや大きくなって約10ポイント(3ミリ四方)だ。

 このサービスを本当に受けられるのか、記者は都内の販売店を訪ねた。

 「お客様の場合、継続利用が10年を超えており、すでに使用料は50%引きになっています」

 新たな割引は受けられなかった。改めてカタログを見ると、確かに割引の条件が、これまた約10ポイントで書かれている。納得しつつも、「みんないきなり」の「みんな」とはどういう意味かと、疑問は残った。 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0119/TKY200801190117.html