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2008年01月19日(土) 00時00分

第6回 バズ・オルドリンさん読売新聞

 シンガー・ソングライターの松任谷由実さんと豪華なゲストによる夢の対談「yumiyoriな話」。今年は、人類初の月着陸に成功してから40周年。そこでゲストに、最初に月面に足跡を残した宇宙飛行士の一人、バズ・オルドリンさんをお迎えしました。「さよならジュピター」など宇宙にかかわる曲を作ってきたユーミンは興味津々。時間いっぱいまで質問を続けました。(構成・祐成秀樹)

月の裏 驚きの美

 松任谷(以下M) もともとは空軍パイロットですね。ご自身が宇宙に旅立つと、思われていましたか。

 オルドリン(以下A) 当時はいつ戦争が勃発(ぼっぱつ)するか分かりません。核戦争に向けての訓練をやってました。(旧ソ連の人類初の人工衛星)スプートニクの発射が話題にはなりましたが、空軍の任務が大事。宇宙に飛びたいとは全く考えませんでした。

  月面着陸パイロットに決まった時のお気持ちは。

  選ばれるかどうか全く分からなかったので、正直ホッとしました。ただ、最初の妻には、注目されるので大騒ぎになるかもしれないと言いました。騒がれるのは私の本意でない。2、3回目のほうがクローズアップされなくて良かったんですけど。

  ガガーリンは世界初の宇宙飛行に成功した時、「地球は青かった」という名言のほかに「神はいなかった」と語ったといいます。クリスチャンとしてどう思われましたか。

  成功した暁には、神に感謝をささげたいとは思いました。でも、あまり口にはしませんでした。なぜならキリスト教は一つの宗教に過ぎない。全人類の功績だと思ったので、狭めたくなかったんです。

  「ランデブー博士」と呼ばれ、NASAの中でもトップの頭脳をお持ちでしたが、女性と話すことは苦手だったそうですね。

  宇宙船同士の結合を行うランデブーを、いかに簡潔にするかを考えるのが楽しくてしかたがなくて。あのころ、私の頭の中はランデブーのことしかなかった。女性についてはおっしゃる通り。うわべのおしゃべりなどできませんでした。今の妻のロイスは社交的。彼女の後をついていくだけです。

  経験を語られている映画「ザ・ムーン」を見てどう思いましたか。

  とてもよく出来てます。登場するのは月を歩いた私たちだけでない。開発に携わった人や、マイク・コリンズのように月の上空まで行きながら着陸しなかった人にも深く取材して、体験談をうまくブレンドしています。

  私はコリンズさんの話に一番感動しました。司令船に残った彼は、人類が月に一歩をしるした意義を考える余裕がなく、どうやって地球に戻るのかばかり考えていたという。そのコメントに着陸船が月を離れる映像が重なる。それがもう、鳥肌が立つぐらい感動しました!

  離陸後、月の裏側から遠ざかる時になると、あまり操作する必要がなくなるので、周りを見る余裕が出ました。本当に美しい風景でしたよ。例えば広大なツイオルコフスキー・クレーター。中に2、3個ピラミッドみたいな岩がポッと立っているんです。

  人工物ですか?

  いや自然のものです。

  月の裏側って、いろんな伝説が生まれやすいんですよね。

  驚いたことは、ほかにもありますよ。月の裏に太陽が来ると、コロナ(外層大気)がオーロラのように見えます。それが地球で見る日食以上に、周りが広く光り輝いていました。

地球はどうなるの

 バズ・オルドリン 1930年生まれ。米空軍パイロットとして朝鮮戦争に参加、ドイツの航空司令官などを経て63年にNASAの宇宙飛行士に選ばれた。69年、アポロ11号の着陸船パイロットに選ばれ、ニール・アームストロング船長に続いて月面に降り立つ。71年に退役。現在は世界中で講演活動を行っている。

  何度も聞かれたと思いますが、どのように地球は美しかったのでしょう。

  宇宙は真っ暗。その中にくっきりポンと一つ、地球が浮かんでいる感じなんですよ。地球から夜空の星を見ると、大気の影響でまたたいている。ところが宇宙で見る星はまたたかず、光りっぱなし。それらと一緒に、地球の輪郭がはっきりして見えると、それが本当に美しい。

  海や陸は見分けられるのでしょうか。

  地球の周りはほとんど雲。色は茶色とブルーです。残念ながら、アフリカだとか、北米大陸だとかはほとんど分かりません。腕時計を見て、今は何時だから昼間の部分はこの地域だと見当はつけられますが。

  美しい地球はこれからどうなるのでしょう。

  隕石(いんせき)がぶつかるなど外的な衝撃で崩壊してしまう可能性はあると思います。遠い未来かもしれませんけど。一度それが起きると、私たちの未来のみならず、過去の遺産や歴史が全部灰になってしまいます。

  それを防ぐには?

  唯一の方法は、人類が地球以外に住んで地球の歴史を担って継続していってもらうしかない。そのためには、宇宙のどこかに居留地を作るということが大切だと考えています。

  地球以外の天体へのチャレンジは、アポロ計画以降、途絶えましたね。

  若者や子供たちが一番触発されるのは、宇宙にロボットを送り込んだり、遠隔操作することでなく、実際に人間を送り出すことです。様々な技術は右肩上がりで進歩しているのに、唯一宇宙開発だけは停滞している。宇宙を開発できない人類は下降線をたどってると言っても過言でないと思います。

  どこか大航海時代を思い出しますね。コロンブスやマゼランが、ヨーロッパが停滞しつつある時、居留地を求めて世界に旅立ったのと似てる気がします。

  私たち以外の生命体が生存してるのか否かも興味深い。それらを発見するのも大変重要です。

  最後にお聞きしたいのは、バズさんの人生についてです。1970年代は精神的に大変ご苦労されたそうですね。

  月から帰って来てから、うつ病になり、アルコールにも走りました。そこから立ち直る過程で物事をもっと広い視野で見られるようになりました。

  回復されたきっかけは。

  やっぱり人との出会いですね。私と一緒に仕事してくれた人、また、私が誰かのために尽くすことで回復できました。

  今、手にされているメダルはなんでしょう。

  30年間禁酒をしたという証しのメダルです。先週の土曜日にもらったばかりなんです。

  今78歳。とてもハッピーになられたのですね。

映画「ザ・ムーン」

 米アポロ計画を描くドキュメンタリー。宇宙飛行士やスタッフ、NASAの秘蔵映像などで構成、人類が月を目指したこと、地球で生きることの意義を問う。デイビッド・シントン監督。16日からTOHOシネマズ六本木ヒルズなどで公開。


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プロフィル
松任谷由実  (まつとうや・ゆみ)
シンガー・ソングライター。1972年デビュー。
「卒業写真」など、長年愛され続ける曲を世に送り出す。90年のアルバム「天国のドア」は、日本人初の200万枚超えの売り上げを記録した。「松任谷由実・オフィシャルサイト」はこちら

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/yumiyori/20090116yy01.htm