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2008年01月18日(金) 01時43分

三菱自動車 トップの職務怠慢と判定された(1月18日付・読売社説)読売新聞

 製品の安全対策について、企業の経営陣に強く警鐘を鳴らす判決である。

 横浜地裁が、三菱自動車の河添克彦・元社長ら4人の元役員に、業務上過失致死罪で執行猶予付きの禁固刑を言い渡した。2002年に山口県で起きた交通死亡事故の原因となった、クラッチ部品の欠陥を放置した責任を問われたものである。

 事故の過失責任を広くとらえ、安全管理の直接の担当者ではなく経営トップにあるとする、踏み込んだ判断だ。

 クラッチ部品に亀裂が生じるトラブルが1990年代に多発していた。三菱自動車は2000年、運輸省(現国土交通省)から、無償で回収・修理するリコールが必要な欠陥を、すべて報告するよう求められたにもかかわらず、この欠陥を隠すなど虚偽の報告をしていた。

 被告らは、部下に虚偽報告を命じたわけではない。判決が問題にしたのは、事故の発生が予見できながら、「欠陥を漫然と放置した」ことだ。

 河添被告は関係部署に欠陥情報を精査させることもせず、部下の報告をうのみにした。3人の元役員らは社長に改善措置を何も具申せず、上司や部下が決めた方針を安易に了承した。

 判決は経営者としての「自覚に欠けた無責任な態度」を厳しく批判した。「部下の責任」という言い逃れは、許されないということだろう。

 三菱自動車では長年にわたって、トラブル情報を運輸省に報告するものと秘匿するものに分け、二重管理していた。リコールをせず、販売会社に内々で点検させるヤミ改修も常態化していた。

 このリコール隠しなどが2000年に発覚し、その後、法人としての同社と元副社長らが道路運送車両法違反で罰金刑を受けている。リコール担当の元部長らが先月、別の欠陥を放置したとして業務上過失致死傷罪で有罪判決を受けた背景にも、それまでの隠蔽(いんぺい)体質がある。

 河添被告らには、病巣を一掃し、再出発する重責があった。職務怠慢というだけで済まされないのは当然だ。

 リコール隠しの背景には、ブランドイメージの低下と多額の費用負担への恐れがあった。しかし、どんなに技術が進歩し、性能が向上しても、設計や製作過程でのミスは起こり得る。リコールは、むしろ企業の良識を示すものだ。

 国交省は、リコールには、届け出基準が明確でないことや、欠陥なのか耐用年数が過ぎたのか判断が微妙な問題もあるとして、改善策を検討している。自動車業界とも協力し、より透明で安全が保てる制度としていくことが大切だ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080117ig91.htm