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2008年01月18日(金) 09時57分

インサイダー取引 NHK記者ら3人を聴取 1人は否認毎日新聞

 NHKの報道局記者ら3人が、放送前のニュース原稿を読み、その内容を元に株を買い付け、高値で売り抜けていたとして、証券取引等監視委員会は証券取引法違反(インサイダー取引)容疑で事情聴取するなど調査に乗り出した。NHKは17日に記者会見し、2人が認め、1人が否定していることを明らかにした。3人の勤務地は異なり、連絡を取った形跡もなく、証券監視委は他に同様の不正行為がなかったか調べを進めるとみられる。

 報道機関の記者がインサイダー取引容疑をかけられるのは初めて。3人は▽報道局テレビニュース部制作記者(33)▽岐阜放送局放送部記者(30)▽水戸放送局放送部ディレクター(40)のいずれも男性。

 不正利用されたニュースは、牛丼チェーン「すき家」を展開する外食大手「ゼンショー」が大手回転ずしチェーン「カッパ・クリエイト」の株式を取得し傘下に収めるとの内容。別の記者が取材し、昨年3月8日午後3時の市場取引終了と同時に、テレビで特ダネとして放送された。

 NHKによると、ニュース原稿は同日午後2時38分、完成原稿として登録された。3人のうち事実を認めている2人は、放送までの22分の間に専用端末で原稿を読み、カッパ社株約1000〜3000株を百数十万〜約500万円で購入した疑いを持たれている。8日に1720円だった株価は翌9日に1774円に上昇。3人は9日に売却し10万〜40万円の利益を得たという。

 完成原稿は約1万1000人の職員のうち、記者や編集担当者ら約5000人が閲覧を認められ、割り当てられた職員番号とパスワードを端末に打ち込んで閲覧できる。3人は自宅に戻るなどしてネット取引で発注していたとみられる。

 証券監視委は別のインサイダー取引を調査する過程で今回の不自然な取引を把握したとみられる。NHKの橋本元一会長は「報道目的の情報を自己の利益に悪用したことは許されない。視聴者に深くおわびしたい」と陳謝した。【堀文彦】

 ▽インサイダー取引 投資判断に影響を及ぼすような未公開の重要事実を知ったうえで株式売買する行為。市場の公正性・健全性が損なわれるため規制されている。罰則は従来、懲役3年以下または罰金300万円以下だったが、06年7月、各5年以下、500万円以下に厳罰化された。今回は昨年3月の行為のため、起訴されれば厳罰化された証券取引法の条文が適用される。昨年9月、同法などを一本化した金融商品取引法が施行された。

 ▽服部孝章・立教大教授(メディア法)の話 一般市民や投資家より早く情報を知りうる特権を悪用したもので、視聴者に対する裏切りであり、報道にかかわる者として倫理観が欠如している。ただ、テレビ局や新聞社にとって、どの部署の記者でもいち早く経済情報を知ることができる編集システムは、番組や記事作成のうえで外せないだろう。組織として再発防止の決め手はないと思われ、最終的には個人の倫理観にゆだねるしかない。

 ▽放送倫理・番組向上機構の放送倫理検証委員会委員で作家の吉岡忍さんの話 不祥事が続き、新体制が発足しようとしてNHKが注目を集めている時期に、疑いをかけられるとは何をか言わんやだ。報道畑にいる人間なのだから、そのことを感じていないはずがない。再生途上にあるNHKの局員には一生懸命やっている人の方が多く、当事者だけの問題ではなく全体の士気にかかわる。報道やメディアの仕事に携わろうとした初心を思い出してほしい。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080118-00000004-maip-soci