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2008年01月17日(木) 20時35分

<インサイダー取引>NHK記者ら3人を聴取 1人は否認毎日新聞

 NHKの報道局記者ら3人が、放送前のニュース原稿を読み、その内容を元に株を買い付け、高値で売り抜けていたとして、証券取引等監視委員会は、証券取引法違反(インサイダー取引)容疑で事情聴取するなど調査に乗り出した。NHKは17日に記者会見し、2人が認め、1人が否定していることを明らかにした。3人は異なる勤務地で連絡を取った形跡もなく、証券監視委は、他に同様の不正行為がなかったかについても調べを進めるとみられる。

 報道機関関係者のインサイダー取引としては、日本経済新聞社広告局の社員が、広告主から請け負った法定公告の原稿を社内端末で閲覧して不正に株を取得・売却したケース(有罪確定)があるが、記者は初めて。

 調査を受けているのは▽報道局テレビニュース部制作記者(33)▽岐阜放送局放送部記者(30)▽水戸放送局放送部ディレクター(40)のいずれも男性職員。

 不正利用されたニュースは、牛丼チェーン「すき家」を展開する外食大手「ゼンショー」が、大手回転ずしチェーン「カッパ・クリエイト」の株式を取得して、傘下に収めるとの内容で、昨年3月8日午後3時にテレビで放送された。

 NHKによると、ニュース原稿は同日午後2時38分、完成原稿として登録された。3人のうち事実を認めている2人の説明では、放送までの22分の間に、専用端末で原稿を読み、カッパ社株約1000〜3000株を百数十万〜約500万円で購入したという。8日に1720円だった株価は翌9日に1774円に上昇。3人は9日に売却し、10万〜40万円の利益を得たという。

 端末は記者の原稿を集約し、デスクが手直しを行うため、放送総局や国内外の各放送局に計約1000台設置されている。端末上でデスクが手直しすると、完成原稿として登録される。完成原稿は、約1万2000人の職員のうち、記者や編集担当者ら約5000人が閲覧を認められ、割り当てられた職員番号とパスワードを端末で打ち込んで閲覧できる。

 3人はいずれも完成原稿を見られる立場にあり、自宅に戻るなどしてネット取引で発注していたとみられる。3人は自宅待機中で、認めている2人は「以前に同様の行為をしたことはない」、1人は「値動きを見て買った。放送前の原稿は見ていない」としている。

 NHKの橋本元一会長は「報道に携わる者が報道目的の情報を自己の利益に悪用したことは許されない。視聴者に深くおわびしたい」と陳謝した。

 ▽インサイダー取引 投資判断に影響を及ぼすような未公開の重要事実を知ったうえで株式売買する行為。市場の公正性・健全性が損なわれるため規制されている。罰則は従来、懲役3年以下または罰金300万円以下だったが、06年7月、各5年以下、500万円以下に厳罰化された。今回は昨年3月の行為のため、起訴されれば厳罰化された証券取引法の条文が適用される。昨年9月、同法などを一本化した金融商品取引法が施行された。

 ▽服部孝章・立教大教授(メディア法)の話 一般市民や投資家より早く情報を知りうる特権を悪用したもので、視聴者に対する裏切りであり、報道にかかわる者として倫理観が欠如している。ただ、テレビ局や新聞社にとって、どの部署の記者でもいち早く経済情報を知ることができる編集システムは、番組や記事作成のうえで外せないだろう。組織として再発防止の決め手はないと思われ、最終的には個人の倫理観にゆだねるしかない。

 ▽放送倫理・番組向上機構の放送倫理検証委員会委員で作家の吉岡忍さんの話 不祥事が続き、新体制が発足しようとしてNHKが注目を集めている時期に、疑いをかけられる行為をするとは何をか言わんやだ。報道畑にいる人間なのだから、そのことを感じていないはずがない。再生途上にあるNHKの局員には一生懸命やっている人の方が多く、当事者だけの問題ではなく全体の志気にかかわる。報道やメディアの仕事に携わろうとした初心を思い出してほしい。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080117-00000139-mai-soci