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2008年01月11日(金) 12時32分

倒産した新風舎と契約中だった出版希望者オーマイニュース

新風舎が民事再生法の適用を申請したというニュースがあったが、現在、契約中という出版希望者の中には、私の知人の70代男性も入っている。

 彼は、2007年、手付け金27万円を支払って、手書き原稿を送ったが、その後、数カ月ウンともスンとも言ってよこさないので、秋に私に相談を持ちかけてきた。

 内容を聞くと、最終的に、137万円支払うと、500部を刷り、本人には50部渡し、後は書店に売り込みをかけるという事だった。話自体におかしいと思われる点はないが、まず137万円の明細書がない。この男性は、出版契約書もよく読まず、私があれこれ聞いても契約内容を全く把握していない。

 日頃「金がない」を繰り返し、月々3000円ほどの携帯電話料金がもったいなくて、キャンセルしたような人なのだが、大手の新聞に広告を出しているからと、すぐに信用し、ぽんと大金を支払う。こういう彼の金銭感覚が私にはよくわからない。

 動機がまた不可解である。自分史を出したい気持ちはわかる。が、50冊の本は誰に売るでも、あげるでもなく、手元に置いておくのだそうだ。残りの450部は売れると思ったというが、インターネットも使わず、自分で努力もせず、「素人の稚拙な文章(と出版社に言われたそうだ)」でつづった自分史を、出版社が熱心に営業する訳がないだろう。

 売り込みをかけるという450部は、失礼ながら売れるとは思われない。自分史などは売れ筋ではないのだ。事実インターネット上には、ほとんど営業していないという情報が載っている。

 500部という部数もきちんと刷っているのかどうか、確認しに出かけた人もいる。よしんば彼の本が売れたとしても、印税は7%だそうで、出資した100万以上の金額はまず手元に入ってこない。元は取れないのだ。

 なぜ出版したいのか、よくよく聞いてみれば、それは儲かるかもしれないという、欲と自己満足のエゴの為らしい。自己満足代137万が惜しくないという人はいいかもしれないが、前述したように、彼は日頃ケチケチと暮らしている人なのだ。惜しくない訳がない。売れ残りは、本人が引き取る場合は7掛けだそうだ。この代金は既に支払い済みだろうに。最初に渡された50冊は、これでは1冊2万7千円に付く事になる。

 私自身、10年ほど前に、新風舎に原稿を送った事があり、その後、内情を知って一切関わりを持たない事に決めていたが、ずっと同じ方法で自費出版をしたい人々に割高な料金で出版事業を続けていたのだ。ネット上では既に悪評さくさくだったにも関わらず、信用して大金を支払う人がいるのだと知って、暗澹とした気持ちになった。

 27万ものお金を支払う前に、どうして、多少は出版界の事を知っている私に相談しなかったのかと聞くと、学歴のない自分が相談しても笑われるだけと思ったそうだ。

 手付金は返金不可という事だったので、懇意にしている出版社を紹介したところ、60万円で、500部印刷するという事で話が付いた。

 後は全額とは言わないが、全く何もしていないのだから、手付金の1部を返金してもらうのに、新風舎に談判に同行してくれないだろうかともちかけられたが、既に編集者から直に電話が来ていて、一筋縄では行かない様子だったので、係わり合いになる煩わしさを考えて断った。息子さんと行った後、翻意して、私が紹介した知り合いの出版社ではなく、新風舎から出版する事にしたと聞いた。

 数日前、バッタリ会ったので、破産のニュースを伝えようか伝えまいかと悩んでいたところ、先方から言ってきた。私にまた何か相談したかったのかもしれないが、忙しい時間を割いて相談に乗り、良心的な出版社を紹介した後で、もう私に出来る事はない。早々に話を切り上げて別れた。

 この会社の悪い噂が広まるようになったのは、インターネットの普及のせいだろう。それなのに、行政指導も入らず、いきなり破産のニュースを聞いてため息が出た。

(記者:工藤 明子)

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