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2008年01月08日(火) 00時00分

⑦いつも我が家の一部読売新聞

窓の外に…ミニチュアで手元に…
自ら開発した「東京タワー2007」(高さ66・6センチ)を見つめる加藤さん=立石紀和撮影

 漆黒の闇に、天まで届きそうな尖塔(せんとう)が浮かび上がる。眼前に広がるのはオフィスビルから漏れてくる光の海。東京タワーはその中で、ひときわ輝いて見えた。

 「あらゆる情報が集まる東京の真ん中に、今、自分がいる。タワーを見るたびに、そう実感できる」。タワーから1キロも離れていない港区の賃貸マンションに夫婦で暮らす会社員恩田和(なごみ)(30)はベランダでタワーを見つめながらこう話す。

 もちろん家賃は安くはない。だが、和歌山出身の恩田は子供のころから上京のたび、タワーの夜景に魅了され、「将来、タワーの見える場所に住みたい」と思い続けてきた。

 昨年6月、ここに引っ越してきてから、タワーの光が季節ごとに変わることに気が付いた。夏は青白い光、今はオレンジの温かい色で輝いている。「疲れて仕事から帰ってきても、不思議と癒やされる」

 タワー周辺に住みたいと望んでいるのは恩田だけではない。不動産調査会社「東京カンテイ」の中山登志朗(44)によれば、タワー周辺のマンションでは、南向きではなくても、タワー側に窓のある部屋から売れていくという。

 「東京タワーの夜景をご自宅に」。こんなキャッチフレーズで発売された大人用の玩具(がんぐ)が昨年、大ヒットした。セガトイズのミニチュア「東京タワー2007」。21個の発光ダイオード(LED)を内蔵し、鮮やかなライトアップも再現できる。

 東京人にとってのタワーは、恋人とのデート場所だったり、深夜帰りのタクシーの中で眺める景色だったり。「いろんな思い出の詰まったタワーが自宅にもあれば、『また明日も一日頑張ろう』と思えるのでは」。同社社員の加藤武彦(40)のこんな思いつきが開発のきっかけだ。

 図書館でタワーの設計図を探したり、展望台から鉄骨の組み方を観察したりしたが、ただリアルさを追究したわけではない。実物は想像以上にとがった形で、地上からタワーを見上げる私たちの記憶とはズレがある。そこで、すそを広げた形に設計し直した。それだけに、完成品を手に、タワー建設に携わった鳶(とび)職人の桐生五郎(75)の自宅を訪問した時は緊張した。「オレの造ったタワーと違う」と怒られはしまいか——。ところが、桐生は箱からタワーを取り出すと目を細めて、ため息を漏らした。「『姿の美しいものは良いものだ』と言っていた親方の言葉を思い出したよ。これは姿が美しいね」

 定価1万3330円と安くはないが、昨年7月の販売開始からわずか1か月で1万台を出荷。年末には2万台を突破した。

恩田さんのマンションでは、真っ正面にタワーが浮かび上がる

 タカラトミーも今春、縮尺2000分の1(約17センチ)の模型「東京タワー物語」を発売する予定で、開業当初から展望台で販売しているタワープラモデルも依然として根強い人気を誇る。“マイタワー”を部屋に飾りたいという人は増えているようだ。

 加藤には忘れられない光景がある。昨年6月、江東区の東京ビッグサイトで行われた「東京おもちゃショー」。セガトイズのブースで、車いすのおばあさんがタワーを手に取ると、突然、涙を流し始めた。

 聞けば、開業当時、人波にもまれながら家族で東京タワーに上ったという。今、夫には先立たれ、自分は足が不自由に。「でもね——」と言い、急に明るい表情になった。「これがあれば、いつでもあのころを思い出すことができるの」

 加藤は「この仕事をやっていて、本当に良かった」と胸を熱くした。

 今でもタワーの感想が、連日、同社に届けられる。

 「12年前、くも膜下出血で入院した病院の窓から見えるタワーの光に勇気づけられた」「亡き父が鳶職として建設に携わり、自分も鳶になった。タワーは父の遺(のこ)した財産」

 電波塔としての主な役割は3年後に墨田区に完成する新タワーに引き継がれるが、東京タワーの役割は、それだけではない、と加藤は感じている。50年の歴史を経て、“この指とまれ”の指のように、様々な人の思いを引き寄せ続けているのだと。

(敬称略、吉良敦岐)

(おわり)

 ◆「ノッポン」も人気

 東京タワーへの注目の高さは、タワーのイメージキャラクター「ノッポン」人気からもうかがわれる。

 ノッポンはタワー開業40周年を記念して1998年に公募で選ばれたキャラクター。頭が鉄塔の形をしている双子の兄弟で、土日祝日にはタワーの正面玄関付近で、着ぐるみのノッポンが出没し、来場者に愛嬌(あいきょう)を振りまいている。当初は魚肉ソーセージみたいだと言われて、ノッポンを見て泣き出す子供もいたというが、2005年にテレビで「東京タワーのホームページの掲示板に書き込まれるノッポン兄のコメントがおもしろい」と紹介され、爆発的な人気に。現在では、タワー内にある土産店で、ぬいぐるみやキーホルダーなどが月5000個前後売れているという。

 東京タワーを運営する日本電波塔営業企画室の沢田健さん(36)は「今年はノッポンあての年賀状も50枚ほど届いた。ただのキャラクターではなく、掲示板でお客と言葉を交わしあえる点がウケたのではないか」と話している。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231199378046481_02/news/20080108-OYT8T00489.htm