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2008年01月07日(月) 00時00分

⑥プロポーズから新生活まで 愛を見守り続け読売新聞

永遠の愛を見守り続け
2006年6月、八野岳雄さんと純子さん夫妻は結婚披露宴で、思い出の東京タワーをあしらったウエディングケーキにナイフを入れた(八野さん提供)

 高さ150メートルの東京タワー・大展望台に、女性ボーカルのゆったりとした声が流れた。

 「ポート・オブ・ノーツ」の「さらば」。ふるさとに別れを告げ、新天地で生きることを誓った曲だ。福岡から3年前に上京した会社員、純子(35)の大好きな曲だった。

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 2005年12月2日。毎週金曜夜、大展望台のスタジオ「Club333」から流している番組にこの曲をリクエストしたのは、当時、フリーのライターだった八野岳雄(たかお)(38)。純子とは1年半前に知り合い、交際していた。

 その数か月前。八野と純子はささいなことで大げんかになった。険悪なムードのまま、八野が車で純子を送り届け、立ち去ろうとしたとき、純子は「東京で一人放り出されても、生きていけない」と号泣。自分へ寄せる信頼に胸が打たれたのかもしれない。このころから八野のなかで、純子との結婚の意志が固まっていった。

 「プロポーズは高い所がいい」。純子は八野に、そんな夢をたびたび語った。だから八野は、その場所は東京遊覧飛行のヘリコプターで、と考えていた。それがタワーへと変わったのは、たまたま聞いたFMラジオで、タワーのリクエスト番組の存在を知ったからだ。

 前日、八野は一人でタワーに下見に行った。放送が最も良く聞こえる場所はどこだろう。番組担当のタワー職員、五十嵐健吾(26)に相談し、大展望台のカフェをプロポーズの場所に決めた。自分のリクエスト曲を最初に流す約束もとりつけた。時間が読め、純子をスムーズにカフェへ連れて行けるから。それに、もしほかにプロポーズのリクエストが入っていて、先に流されると感動が薄れてしまう。

 実は純子は、この日のプロポーズに、うすうす気付いていたという。九州の友人が遊びに来るのに、いつも温厚な八野が、「どうしてもタワーに行く」と譲らなかったからだ。

 カフェで席についてほどなく、女性DJが八野のメッセージを読み上げた。「九州から一人で出てきて、これまで大変だったけど、これからは二人で生きていこうね」

田村さん夫妻が挙式したホテル最上階にあるチャペルの十字架は、東京タワーに収まるように据えられている

 曲が流れ始めると、純子の目に涙があふれてきた。終わると同時に、八野はテーブルのコーヒーを挟んで向かいあって座る純子に「ぼくと結婚してください」とプロポーズ。純子は八野が言い終わらないうちに、「はい」とうなずいた。

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 「東京タワーには、数ある都心の高層ビルとは違う存在感がある」

 06年のクリスマス、交際9年目の智恵子(27)へのプロポーズ場所に、タワーの見えるホテルを選んだ会社員、田村佳大(よしひろ)(29)はこう話す。

 「ザ・プリンスパークタワー東京」(港区芝公園)最上階のレストランでフレンチを楽しんだ後、客室に戻ると、フルーツを飾ったケーキがワゴンに載って届く、という仕掛け。ケーキには、ハート形のアメ細工の上に、結婚指輪の入った黒い箱——。1年後、同じホテルで挙式した二人の携帯電話の待ち受け画面には今、プロポーズから挙式までを見届けた東京タワーが写っている。

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 八野と純子は06年6月に結婚した。

 二人が住む江東区のマンション11階のベランダからは、遠くに小さく東京タワーが見える。その姿を目にするたびに、純子は「私たちみたいに、タワーでプロポーズが進行しているカップルが、今日もいるんだろうな」と胸を熱くしている。(敬称略、門間順平)

 ◆ライトダウン伝説、ルーツは? 

 東京タワーのライトアップが消える瞬間を一緒に見つめたカップルは永遠の幸せを手に入れる——。

 東京タワーの「ライトダウン伝説」。その由来は、弘兼憲史さん(60)の人気漫画「部長島耕作」の一場面だとする説が有力だ。恋人の誕生日、ケーキに立てるろうそくの数を1本少なく間違えた主人公の耕作が、タワーの灯を巨大なろうそくに見立て、午前0時の消灯と同時に吹き消して見せるシーン。

 実は、この場面にはモデルがいた。弘兼さんのサラリーマン時代の上司が、タワーの見えるマンションのベランダで、実際にやってみせたのだ。その場に立ち会っていたのは男ばかり数人だったが、「これは使える」と、恋人たちのロマンスに転用したのが真相とか。

 弘兼さんは「タワーを描くと、そこが東京だとすぐ分かるので、漫画のなかでも場面転換によく使わせてもらっている。そんな世話になっているタワーの伝説に、ぼくの漫画が影響しているとしたら、光栄ですよ」と話している。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231199378046481_02/news/20080108-OYT8T00484.htm