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2008年01月06日(日) 17時59分

清華寮、所有権の怪 国・日中台の元住民ら無効訴え朝日新聞

 東京都文京区の住宅街に、外壁が黒ずんだ無人の外国人寮がある。台湾総督府の留学生寮として約80年前に建てられた「清華寮」。台湾人や中国人らが日本人と一緒に生活を続けてきたが、昨年夏に火災にあい、全員が焼け出された。日本と中国、台湾の外交のはざまで所有権が宙に浮いていたこの建物をめぐり、いま異変が起こっている。

無人となった清華寮。入り口は板でふさがれている=東京都文京区小日向1丁目で

 清華寮は、1927年、旧台湾総督府関連の財団法人・学租財団が台湾人留学生用の宿舎として、国有地を借り建設した。約3100平方メートルの敷地に鉄筋3階建て地下1階の建物が立つ。

 戦後、台湾総督府が消滅し、学租財団の実態はなくなった。その結果、所有者不在の建物が国有地を「不法占拠」する状態となったが、その後も入寮は続いた。

 やがて、中国からの留学生も住むようになった。台湾系、中国系で自治組織を作り、それぞれ入寮希望者を審査。中国系の留学生が日本人にまた貸しするようにもなり、台湾、中国、日本の人たちが家賃8000円で電気や水道を共同で管理して生活していた。

 鍼灸(しんきゅう)師の中国人張振中さん(60)は、79年にはり・きゅう師免許取得のため来日、先輩の紹介で入寮した。「古くても、中国語が通じ居心地が良かった」と振り返る。

 立ち退きは求められなかった。72年の日中共同声明で日本は中国と国交を正常化、台湾と断交した。寮の帰属先はどこになるのか。台湾、中国、日本の三つの見方があったが、外交問題になるのを恐れた政府が手を出さなかったためとみられる。

 昨年7月、寮の7割、約1300平方メートルが焼ける火事が起きた。住民のたばこの不始末が原因とされ、中国人母娘2人が死亡。約40人が家を失った。住民は今、勤め先に住み込んだり、知人宅に身を寄せたりしているという。

 寮の所有権をめぐる異変は火災の少し前にあった。消滅した学租財団とは別の財団法人「進徳奨学会」(東京)の当時の理事が寮を訪れ、住民に建物の所有者であると宣言した。

 進徳奨学会は03年12月、所有権の移転登記を求める裁判で勝訴し、06年1月に登記を済ませていた。判決や答弁書によると、78年に学租財団の理事から寮の寄付を受けたとする奨学会の主張が認められた。

 建物の譲渡は、寮の住民にとって寝耳に水だった。焼け出された住民らは弁護士を立て、「裁判で奨学会が提出した証拠に偽造の疑いがある」と判決の無効を主張し、争う構えを見せている。

 一方、静観していた財務省も、借地契約は奨学会に継承されていないとして、土地の明け渡しを求める訴訟の準備を始めた。

 進徳奨学会は、苦学生への奨学金支給を目的に60年に設立したとされる。しかし、所管する文部科学省によると、近年は「活動実態がない」状態という。昨年11月に就任した奨学会の理事は、取材に対し「設立の趣旨に立ち返り、時代に合った形で奨学会の立て直しをはかっている最中」と説明。国が提訴した場合、建物の譲渡から10年以上の経過を理由に土地使用の正当性を主張するとしている。

 都心に近い寮の土地は、最低でも二十数億円の価値があるとされる。この土地をめぐっては「払い下げで利益が出る」と架空の投資話を持ちかけた詐欺事件も起きている。

 清華寮の敷地ではいま、奨学会が雇った警備員が監視を続ける。年に1度、寮生総出で草刈りしていた庭は枯れ草に覆われたまま。「本国有地を売却する予定はありません」と書かれた財務省の看板が立っている。 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0105/TKY200801050081.html