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2007年12月26日(水) 01時48分

NHK新会長 効率化と番組の質の両立を(12月26日付・読売社説)読売新聞

 経済界の出身者がNHKの経営委員長と会長の座を占める。適度な緊張関係を保ち、改革を推進できるかどうかが最大のポイントだろう。

 NHKの経営委員会は、来年1月に任期切れとなる橋本元一会長の後任に、アサヒビール相談役の福地茂雄氏を選んだ。財界人の起用は三井物産出身の池田芳蔵氏以来、約20年ぶりだ。

 アサヒビールの業績を順調に伸ばした経営手腕と、企業メセナ協議会理事長を務め、文化に造詣(ぞうけい)が深いことなどが買われたのだろう。

 委員会はこの人事をめぐり紛糾した。一部の委員からは「事前に十分な相談もなく、古森重隆経営委員長が独断で人選を進めた」という指摘が出た。議事運営に反発を強めていたようだ。

 会長の外部起用自体は悪くない。過去には池田氏のほかにも、新聞社や官僚OBも会長に就いている。報道の現場を知らないことを懸念する向きもあるが、技術畑の橋本会長に対しても同じような見方があった。

 より重要なのは、福地氏が、経営効率化と質の高い番組づくりを、ともに担えるかどうかである。

 古森氏は社長を務める富士フイルムホールディングスで、大胆なリストラを断行した。今年9月にNHK執行部がまとめた2008年度からの5か年経営計画案を「内容が不十分だ」として却下している。福地氏を起用した背景には、十分な改革に踏み込めない橋本会長への不満があったとみられている。

 確かに執行部の改革案は、まだ不十分だ。子会社や関連会社の整理統合、受信料の公平な負担に向けた具体策づくり、続発した職員らの不祥事の防止策、国際放送の強化策などについて、一層積極的に取り組むべきだ。

 しかし、経営委員会と執行部のトップがともに効率ばかりを追求すれば、良質で公正な番組づくりに制約が加わることになりかねない。

 NHKは国民の受信料で運営されている公共放送だ。それを常に念頭に置いて経営にあたる必要がある。

 NHKは、視聴率に左右されず、国会中継や、語学講座や古典芸能などを放送している。これらは国民の教養を高める役割を果たしている。国際放送で世界に日本の出来事を伝え、全国の取材網を通じ、台風や大地震などの災害時には絶え間なくきめ細かい情報を届けている。

 こうした放送は民放にはできない。新たに発足する「福地体制」では、NHKならではの信頼できる番組づくりを忘れないでほしい。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20071225ig91.htm