記事登録
2007年12月23日(日) 00時00分

「私のしごと館」年10億超す赤字 民間委託の見通し朝日新聞

 独立行政法人「雇用・能力開発機構」の若者向け職業体験施設「私のしごと館」(京都府精華町)が、オープンからわずか4年で民間委託される見通しとなった。「若者の失業・就労対策」を掲げて、関西文化学術研究都市(学研都市)の看板施設として建設されたが、年10億円超の赤字を続け、独法改革で「廃止も当然」とやり玉にあがった。580億円もの建設事業費や赤字の穴埋めに、雇用保険料がつぎ込まれながらの放漫経営には、「建設だけが目的だったのでは」との批判が渦巻く。

広大な敷地に立つ「私のしごと館」=03年1月、京都府精華町で、本社ヘリから 消防士の放水体験をする子どもたち=04年5月2日、京都府精華町の私のしごと館で      

      ◇

 「私のしごと館? 廃止で決まりだ」。今月3日、独立行政法人の統廃合をめぐり、舛添厚生労働相との折衝を終えた渡辺行革相は、記者団にこう言い切った。

 渡辺氏が個別の施設名に踏み込んだのは、同館が「無駄な箱モノの象徴」とみなされていたからだ。だが、その後の協議で厚労省側が抵抗。民間委託での施設存続が24日にも閣議決定される見通し。

 しごと館は03年3月、国立国会図書館関西館や国際電気通信基礎技術研究所が並ぶ学研都市の中心部にオープン。床面積3万5千平方メートルのガラス張り3階建てで、甲子園球場の約2倍、8・3ヘクタールの敷地は木津川、精華両市町にまたがる。

 しごと館の構想は89年にさかのぼる。国の懇談会が若者の転職増を背景に、「職業体験施設が必要」と提案。「研究施設中心の街に若者を呼び込みたい」(京都府)との思惑もあり、学研都市への立地が決まった。

 総事業費580億円は、「定職に就く若者が増えれば事業主にも有益」として、全国の事業主が払った雇用保険料をプールする国の労働保険特別会計から支出された。労働ジャーナリストの金子雅臣さんは「当初から無駄な施設とみられていたが、若者の雇用拡大との大義名分の下、反対しにくかったのだろう」とみる。

 懸念は的中し、同館は開設以来の赤字経営が続く。厚労省によると、06年度の入館者は33万人で、収入は微増の1億4千万円。これに対し、同省の天下りを含む職員33人の人件費だけで年3億円に上る。運営費全体では年間16億〜19億円で、赤字の穴埋めに費やした雇用保険料は総額約70億円と見込まれる。

 東京で昨秋オープンした民間の子ども向け体験施設「キッザニア」は、各業界の49社が参画した仕事体験が話題となり、1年で約80万人が利用した。担当者は「しごと館は都市部から遠く、学校以外の利用者が見込みにくい」と指摘する。

 しごと館も民間委託で採算性を向上させたいところだが、厚労省は「若者向け施設なので、料金値上げはできない」。同館のスタッフも「楽しむ施設か、技術を身につける施設か、方向性が定まらない。このまま民間委託しても行き詰まるだろう」と心配する。

      ◇

 実際、どんな施設なのか。同機構は施設の存廃論議が浮上した3日以降、「利用者に無用な不安を与える」と取材拒否を続ける。そこで、入館料700円と体験料300円を払って入館した。

 1階ホールには、様々な職業の制服を着た等身大の人形約100体のほか、各職種を紹介したパネルや自分の適性を探すコンピューターが並ぶ。体験ゾーンでは、テレビスタジオや伝統工芸の工房を再現。約40の職業を1時間のプログラムで疑似体験できる。

 「介護」の体験メニューを選び、関西の高校生約15人と一緒に参加した。講師の女性から「相手の気持ちになって」と注意を受け、2人1組で車いすの押し方や障害者の介助法を学ぶ。女子生徒は「すごく楽しい」と声を弾ませた。

 ただ、課題も多い。京都市から車で1時間と交通アクセスに難がある。さらに、全職種の講師が常勤でないため、1人が学べる仕事は1日三つまで。予約なしで来館すると、体験できない職業も多い。利用者からは「施設は広いが、プログラムは少ない」「遊びに終わり、職業選択には役立たない」との声もあった。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200712220105.html