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2007年12月13日(木) 12時43分

元郵便職員、失職「妥当」 学生時代に反戦デモ 最高裁朝日新聞

 大学時代に反戦デモに参加して公務執行妨害罪で有罪判決を受けたことを理由に27年間働いた国家公務員を失職させたのは妥当か。失職の撤回を希望する元郵便局職員が地位確認などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)は13日、上告を棄却した。元職員の敗訴が確定した。

 神奈川県藤沢市の元藤沢郵便局職員稲田明郎さん(57)は72年9月、同県相模原市でベトナム戦争に反対する戦車輸送阻止闘争に参加。その後の73年4月に国家公務員に採用された。同年12月に懲役4カ月執行猶予2年の刑が確定したが、それを明らかにせずに働き続けた。00年9月に「逮捕されたことがある」との匿名の電話が関東郵政局にあり、同年11月になって73年にさかのぼって失職した。

 稲田さんは国(日本郵政グループの郵便事業会社が承継)を提訴。禁固以上の刑確定で失職するとした国家公務員法の規定について「私企業に比べて不合理な差別で違憲だ」などと主張した。

 第一小法廷の5人の裁判官のうち4人の多数意見は「規定は公務に対する国民の信頼確保を目的としており、合憲だ」と指摘。「長年働けたのは有罪判決を隠し通してきたためで、失職させたとしても信義則に反し権利の乱用にあたるとはいえない」と述べた。

 一方、裁判官出身の泉徳治裁判官は「執行猶予期間が過ぎた後も約25年が経過しており、この職員の公務に対する国民の信頼は回復され、公務から排除すべき必要性は消えた。生計の維持の面でも過大な不利益を課すのは許されない」とする反対意見を述べた。

 稲田さんは、過去に受け取った給与の返還は求められないが、退職金は受け取れなかった。判決後に「勝てなかったのは残念だが、1人の裁判官でも不条理だと指摘してもらえたのは救いだ」と話した。

http://www.asahi.com/national/update/1213/TKY200712130160.html