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2007年12月08日(土) 02時31分

<年金記録>「原簿ごと消失」のケースも 統合作業は困難に毎日新聞

 オンライン化されていない約1430万件の宙に浮いた年金記録の中に「原簿ごと消えた年金記録」があることが分かった。火災など不測の事態で原簿が消失したケースだ。総務省年金記録確認第三者委員会に申し立て、記録が訂正された人は極めて少ない。

 社会保険庁はこれまで「マイクロフィルムなどの原簿をたどれば統合できる」と説明してきたが、原簿ごと消えたり、マイクロが判読不能だった場合は、宙に浮いた年金記録を統合することは困難が予想される。

 社保庁は、厚生年金制度を開始した1942年から54年までに脱退した人の約1430万件はマイクロに転写し、80年代のオンライン化の際には入力せず、紙台帳は廃棄した。古い記録で支給に結び付かないと判断したためだ。多くは基礎年金番号がなく、問題化しているオンライン化された約5000万件の記録漏れとは別に、宙に浮いた状態になっている。67歳以上が該当し、生存していて納付が確認されればいずれも受給資格者だ。

 総務省年金記録問題検証委員会のサンプル調査で、死亡など支給に結びつかない記録は16.3%だけで、納付者が生存し受給漏れの可能性の高い記録が4.1%あった。

 しかし、戦前・戦後の混乱や火災などで原簿も原本となる被保険者名簿も消失したり、マイクロが判読不能だった場合は、納付者の確認は困難になる。【野倉恵】

 ◇戦時徴用、会社の届で証明

 東京都荒川区に住む藤沢勇さん(80)は、62年前の会社の記録で記録が訂正されたまれなケースだ。藤沢さんは17歳だった44年11月に実家の群馬から徴用され、45年10月まで北海道赤平町(現赤平市)の住友鉱業(現・住友石炭鉱業)の炭鉱で働いた。戦後は警察やメーカーに勤務し、87年に受給を申請した。

 だが徴用時代の記録がなく、地元の社保事務所を3度訪ね、北海道の社保事務所にも電話で問い合わせたが「ない」と繰り返された。今年7月、第三者委員会に申し立てた。藤沢さんの問い合わせで、住友石炭鉱業に62〜63年前に役所に提出した資格取得届や資格喪失届が残っていたことが分かり、資格喪失原因欄に「徴用解除ノタメ」と記されていた。これが加入と納付の証明資料となり、社保庁が10月、記録を訂正した。

 社保庁年金保険課は、45年11月に台帳や被保険者名簿を保管していた北海道庁で火事があり、記録が焼失したらしいと説明。同課は「同僚の記録など他の記録も火災で焼けた可能性はある」と他にも原簿ごと消えた年金記録がある可能性を示唆した。また、劣化が激しく判読不能なマイクロもあるといい、統合作業の壁になりそうだ。

 藤沢さんは「父を亡くし、母を看病しながら勤める中『行かなければ逮捕』と徴用された。国の命令で死ぬ思いで働いた事実を消されたくなかった」と話している。【野倉恵】

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