記事登録
2007年12月01日(土) 16時16分

「やっぱ岐阜は名古屋の植民地?」 問題提起の本売れる朝日新聞

 「名古屋市岐阜区」でいいのか!——岐阜の特徴や文化を再認識してほしいと、岐阜市の「まつお出版」代表、松尾一さん(60)が同社から8月に出版した「やっぱ岐阜は名古屋の植民地!?」が初版5000部を売り切る勢いだ。94年、95年に同様名の本で問題提起したのち、「ますます名古屋のベッドタウン化が進んでいる」と、再び筆をとった。

 「岐阜の『阜』の字を書ける人いる?」

 2年前、岐阜県内の大学の教壇で聞いた。手を挙げた学生が、黒板に字を書けなかった。「あわてて、『教育漢字でも常用漢字でもないから』とフォローしたんです」。同書では、「岐阜」の字解きから始まる。

 岐阜市は、一世帯あたりの年間喫茶代が「日本一」だ。松尾さんの一日も、コーヒー代だけでパンと卵がつく「モーニング」がないと始まらない。「打ち合わせや仕事の合間に一日3、4回行く。いつも込んでいる。時間と少々の金とゆとりがある証拠」と喫茶店文化を解説した。

 ウナギは「腹開きで蒸さない関西系」、餅は「四角で関東系」など、日本の中央部にある岐阜の食文化も紹介。「開店祝いの花輪の花を勝手に持って行く」などのエピソードも載せた。

 だが、「元気な名古屋」に吸い込まれる危機感もある。

 05年末以降、名鉄岐阜駅前の新岐阜百貨店、岐阜パルコが閉店。跡地にスーパー、予備校が進出する。駅周辺を見渡せばマンションが増えた。「鉄道で名古屋—岐阜間は最速20分弱。今や、仕事と高価な買い物は全部、名古屋。帰りにスーパーに寄るだけでは、完全な名古屋のベッドタウン」と指摘した。

 あるシンポジウムで、岐阜市出身の出席者が「一流大学を出ても、岐阜の就職先は、県庁、市役所、銀行しかない」と発言したことも紹介。「受け身の意識、発想だ」と指摘した。

 一方、松尾さんが、居酒屋で「岐阜市は『名古屋市岐阜区』の方が幸せ」と冗談で言ったら、同席者が「税金が安ければいい」「分かりやすい」という反応だったことも紹介。「道州制になったら、ニューヨーク州都のオールバニのように、州都に特化した都市をめざせ」「名古屋グランパスではなくFC岐阜を応援しよう」。本ではそんな逆提案で、「岐阜人」の奮起を促した。

 94年に出版の「岐阜は名古屋の植民地!?」は3万部を売り上げ、同名の続編も出版した。「『言えないことをよく言ってくれた』という人もいる。岐阜はあまりに住みよいので、地元の人はよさに気がつかない」。「飛騨街道紀行」などの著書もあり、まちづくりのアドバイザーも務める松尾さんの感想だ。

http://www.asahi.com/culture/update/1201/NGY200712010007.html