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2007年10月27日(土) 08時02分

たった9カ月間の家族 光市母子殺害遺族・本村さん手記要旨産経新聞

 山口県光市で当時18歳の少年に妻子を殺害された本村洋さんが、平成19年版「犯罪被害者白書」に「遺族の思い」と題して寄せた手記の要旨は次のとおり。

 【結婚】私と妻は、共に21歳の時に結婚しました。当時、私は広島大学工学部の4年生、妻は福岡県在住の会社員で別居生活でした。2人が結婚した証は、妻に授かったお腹の子が日々大きく成長することだけでした。

 私は、妻とともに暮らすことができない無力な自分が悔しくてなりませんでした。妻は、そんな私を一度も責めませんでした。笑顔で「11月3日の『文化の日』に入籍しようね。結婚記念日が祭日だったら、毎年一緒に記念日過ごせるよ」と言ってくれました。どんな時も前向きな妻は、いつも私を支えてくれました。私は、妻を幸せにしたいと思いました。

 【長女誕生】出産予定日のころ、新入社員研修中でしたが、出産間近の連絡で妻の暮らす福岡へ向かいました。分娩室の前で、相変わらず無力な私は、ただたたずむだけでした。助産婦さんに呼ばれ、妻と生まれたばかりの娘に対面しました。母になった妻が優しい顔で「パパと私の子供だよ。抱いてあげて」と言ってくれました。あふれる涙を堪えることで精いっぱいでした。

 娘を『夕夏』と名付けました。夏の夕陽のように人を暖かく包む優しい人になってほしいという思いからです。1歳の誕生日を迎える前に生涯を終えた娘にとっては、この名前が私からの最初で最後の誕生日プレゼントになりました。

 勤務先が山口県光市に決まり、やっと妻と娘と3人の暮らしが始まりました。決して裕福な生活ではありませんが、本当に幸せな日々でした。

 【事件当日と裁判】この日、私は残業を終え22時ごろに帰宅しました。いつもなら鍵がかかっている玄関のドアが開いており、不思議に思いました。家の中は異様な雰囲気でした。居間の机や座いすの位置が煩雑で、台所には洗い物が積まれた状態でした。何より、妻と娘の姿がありません。

 家中を探しましたが見当たりません。家の周辺も探し回りました。私は妻が外出するときにいつも使っていたかばんと抱っこひもを確認するため押入れを開けました。押入れには、複数の座布団が不自然に並べられ、座布団のすき間から人の足が見えました。慌てて座布団を払うと、そこには、服をはぎ取られ、顔と手首にガムテープを巻かれた妻が横たわっていました。

 妻の体を手で揺さぶり妻の名前を叫びました。手に伝わる感触は冷たく、妻のぬくもりを感じることができませんでした。そっと手を離し、ただそこに呆然と立っていました。妻を抱きしめてあげることもできず、視線をそらすこともできず、姿の見えない娘を捜してあげることもできませんでした。どのくらい押入れの前に立っていたのか分かりませんが、最後の気力を振り絞って警察に通報しました。「妻が殺されています」と。

 翌日の早朝。娘も自宅から遺体で発見されたことを警察の方から教えていただきました。家族で暮らしたのは、たった9カ月間でした。父親らしいことを何一つしてあげることができず、妻には苦労ばかりかけ、後悔ばかりが募ります。

 そして事件発生から4日後、近所に住む18歳の少年が逮捕されました。

 事件発生から4カ月後、山口地裁で刑事裁判が始まりました。私は裁判が始まる前に1つの大きな悩みがありました。妻が強姦されたことをお母様に話すことができませんでした。しかし、裁判が始まれば、事件の概要が分かります。ある日お母様に全てをお話しました。私の話を聞き泣き崩れるお母様が言われた「娘は二度殺されました」という言葉を忘れられません。

 【犯罪被害者】現行法では犯罪被害者には被告人に質問する権利は認められていません。被害者は法廷で加害者や弁護士が何を言っても、ただじっと傍聴席で切歯扼腕して耐え忍ぶだけです。私は、被害者遺族はもっと刑事裁判に関わる権利を有するべきだと強く思いました。

 事件発生から1年くらいは本当に辛い日々でした。特に山口地裁で刑事裁判が始まった直後は辛かったです。法廷で加害者を見るからです。犯罪被害者の辛いところは、加害者が存在することなのかもしれません。

 当時、山口県に1人で住んでいました。そんな私が辞表や遺書を綴り人生を踏み外しそうになった時に支えてくれたのは、会社の上司や先輩、同僚、友人でした。現在も事件当時と同じ職場で仕事をしています。

 被害者が生きて行く気力を再生させるには、その心の傷を吐露できる場と、その気持ちを受け止めてあげる人が必要です。それには福祉医療、法律など専門的な知識とそれに基づく支援は必要不可欠です。

 犯罪被害者が減少し、不幸にして巻きも込まれた方々が一日も早く犯罪被害から回復し、平穏な生活を取り戻せるような社会を実現できればと切に願っています。(手記全文はMSN産経ニュースで)


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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071027-00000080-san-soci