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2007年10月26日(金) 00時00分

背水の陣読売新聞

 去る9月、福田首相は組閣後の記者会見で、新しい内閣を「背水の陣内閣」と名づけました。テレビで中継を見ながら、ずいぶんあからさまなネーミングだなあと思いつつ、切実な響きを感じたのを思い出します。

 福田さんがこの会見で言った言葉は、「私はこの内閣を『背水の陣内閣』と言っている」。この部分を、The Daily Yomiuri では、At a press conference after the appointment of his Cabinet,Fukuda said it had“its back against the wall.”(組閣後の記者会見で、福田首相は、その内閣が背水の陣にあるとした)と訳しました。「背水の陣内閣」をそのまま訳して、 a back‐against‐the‐wall Cabinet などとしてもいいかもしれません。 against のかわりに to を使うこともできます。ちなみに、「組閣」の部分は the formation of his Cabinet でもOKです。

 一方、追いつめられた結果の「背水の陣」と、大事に当たる前に自ら退路を断つ、という場合では、やはりニュアンスが違ってきます。

 例えば、7月の参院選前のお話。「民主党の小沢代表は、野党が過半数を確保できなければ政界を引退する考えを示し、背水の陣を敷いた」なら、Democratic Party of Japan President Ozawa has burned his bridges;he indicated he would retire as a lawmaker if the opposition bloc fails to get a majority in the House of Councilors. 自分で橋を焼いてしまう、つまり自ら逃げ道をなくす、という意味です。

 この二つの違いを踏まえれば、状況によってさまざまな訳ができそうですね。

 まず、「追い込まれた」方のケースの例。「○○は部長に、もしまた失敗したらボーナスカットだって言われて背水の陣に追い込まれた」なら、His boss drove ○○ into a corner by telling him he'd cut his bonus if he slips up again. などとなります。

 逆のケースでは「○○は、今回のプロジェクトに失敗したら会社を辞めるって、自ら背水の陣を敷いたよ」なら、○○ cut off his own retreat by saying he'd quit if this project fails.などの表現があります。

 人気取りのサプライズ人事などではなく、手堅さを重視したとされる福田内閣。“追い込まれ型”の「背水の陣」では、やはり守勢にならざるを得ない具体例のようにも見えますね。(塚原真美記者)

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/learning/english/20071026us01.htm