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2007年10月26日(金) 13時44分

なぜ? 失跡するマグロ漁の外国人船員産経新聞

 宮城県塩釜市など近海マグロ漁船の寄港地で、上陸した外国人船員が相次ぎ姿を消している。失跡した船員は日本国内で不法就労しているとみられ、その人数は過去5年間で100人を超す。国は「想定外の事態」として管理の徹底を打ち出したが、地元の漁業関係者にとっては「よくあること」らしい。漁港を回ると、日本の漁業の現実が見えてきた。(山口圭介、荒船清太)
 「塩釜港に寄港した漁船のインドネシア人2人が所在不明になった」。今月17日、漁船を受け入れた地元の会社から仙台入国管理局に通報が入った。
 2人と同じ漁船に乗船していたジャワ島出身のハルヤントさん(27)はいう。
 「16日の午前11時ごろに水揚げが終わって休みになった。お風呂に行ってくると言い残して1人が消えた。一緒に買い物に行ったもう1人は、財布を忘れたと言ってコンビニを出たまま戻ってこなかった」。
 外国人船員の乗船を認める「マルシップ方式」が日本の近海マグロ漁船に適用された平成15年以降、国内の寄港地からはこれまでに114人に上る外国人の失跡者が出ている。ほとんどがインドネシア人だ。
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 何が彼らを脱船に走らせるのか。
 「全国近海かつお・まぐろ漁業協会」(東京)は、船内での暴力、月平均4万円とされる低賃金、手引きをする人物の存在−をその原因に挙げる。
 塩釜港にいた別の近海マグロ漁船の船員、スダジさん(23)は「(日本の法律が適用される)実習の時は7万円あった月給が、4万円に減った」。漁業関係の男性(56)が続ける。「(外国人船員が)買い物に行くときは日本人が同行しろだの、夜は早く帰ってこいだの、息が詰まって逃亡を考えるんは当然じゃろ」。
 そんな彼らに、元船員らが脱船を手引きするというのだ。複数の漁港で不法就労をあっせんする現場が目撃されている。
 協会は「その背後には暴力団や仲介組織が介在している可能性が高い」と指摘、失跡者の就労先は全国にまたがるという。
 全国で最も多い42人が失跡した塩釜港の休憩所には日本語とインドネシア語で張り紙があった。
 《儲かる仕事があるなどと、誘いの話があると思いますが、(中略)誘いにのって日本で働けば、日本の法律に違反し、処罰されます》
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 平成15年にわずか1人だった失跡者はその後急増し、今年はすでに47人に達している。
 国土交通省は漁船の所有者に対し、船員管理の徹底や失跡発覚時の速やかな通報を要請、「失跡が続けばマルシップ方式の廃止を検討する」としている。
 協会の八塚明彦業務部長は「廃止されれば多くの漁船が操業できなくなる」と危機感を募らせる。協会によると、近海マグロ漁船に乗船する外国人は約800人に上る一方、日本人だけで操業する漁船は全体の3分の1にも満たないという。すでに外国人なしでは立ち行かないのが実情だ。
 日本人の船員不足に悩む水産業界が、海外からの安価な労働力の確保を狙ったマルシップ方式。生き残りの切り札と期待されたが、相次ぐ失跡で自らの首を絞める事態に直面している。
 再発防止策として、協会は18日、国に対し、外国人船員の給与改善▽寄港地での監視強化▽現地の船員派遣会社の選別−などの緊急対策を提出した。
 ハルヤントさんを乗せた漁船が同日午後、塩釜港を出港した。1カ月ほどで漁を終えると、また国内のどこかの寄港地に戻ってくる。
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 見直しも検討され始めたマルシップ方式は、日本国籍の船で政府が原則的に受け入れていない外国人単純労働者が働くことを認めている。日本の船主が船を外国の会社に貸して、その会社が外国人船員を雇って船に乗せ、日本の船主が船員ごとその船を借り返す仕組みだ。
 全国近海かつお・まぐろ漁業協会所属の近海マグロ漁船約370隻のうち、同方式の船は約180隻。他に約80隻が平成4年に導入された外国人研修・技能実習制度を利用して外国人船員を乗船させており、同方式は研修・実習制度と並んで、安価で豊富な外国人労働力の確保を実質的に支えているといえる。

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