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2007年10月26日(金) 00時00分

NOVA破綻、どうなる受講生 朝日新聞

 NOVAで起きた突然の解任劇。猿橋望社長をクビにした新経営陣は、「ワンマン」の退場で支援企業の登場に望みをかける。受講生らに被害が広がるのを嫌った行政も支援に協力することになりそうだ。だが、再建への更生計画は債権額の2分の1以上を持つ債権者の同意が必要だ。受講料を前払いしている債権者は約30万人おり、取りまとめに難航すれば、NOVAは破産に追い込まれる可能性もある。

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 NOVAの教室数はピーク時の900超から669教室に減った。とはいえ受講生は約30万人いる。希望する受講生に授業を提供し、解約する受講生に払い戻される態勢を整えられるかが、再建の成否を握る。

 大阪市内の教室に通う男性会社員(29)は36万円分のレッスンを購入したが、まだ8割以上の授業分を残す。「講師の質は心配だが、授業さえ続けてくれれば文句はない」。ただ、支援先が現れず、破産などに追い込まれれば「(授業のチケットなどは)紙くずになる」(保全管理人)。

 支援先が見つかれば、救済の道も開かれるが、大幅な教室の統廃合は避けられない。最寄り駅では授業が受けられなくなる人が出てくる。

 そこで、名古屋高裁が9月に示した判決が判断基準になりそうだ。名古屋市内の女性は伏見校に通っていたが、06年3月に閉鎖、近くの栄校に統廃合された。女性は、未消化の受講料分の支払いを求めて提訴した。

 語学学校は特定商取引法の指定業務で、中途解約に関する規定もあり、最高5万円の違約金が発生する。しかし、判決で名古屋高裁は、統廃合により、契約通りには授業が行われなくなったと判断。違約金を支払う必要なく、未消化分すべての受講料返還を命じた。

 消費者問題に詳しい池本誠司弁護士は、「当初の契約通りに授業が受けられるかがポイント。解約時に不利益を被らないようにして欲しい」と話している。

 NOVAを始め英会話学校では、高額の授業料を最初に請求されることが多い。受講生の多くは信販会社とクレジット(信用販売)契約を結び、分割払いをしている。

 分割払いのルールを定める割賦販売法では、業者との間で契約が無効になった場合には、消費者はクレジット会社からの代金支払い請求を拒む権利が認められている。これを行使するには、書面で信販会社に通知する必要がある。

 経済産業省は26日、NOVAの破綻を受け、クレジット利用者を保護するようクレジット業界に要請した。書面など消費者からの通知がなくても、NOVAの休業中は、支払い請求を止めることを求めた。

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 26日、大阪市内で記者会見したNOVAの保全管理人との主なやりとりは次の通り。

 ——地域や事業を分けて売却する可能性は。

 高橋典明氏 「駅前」や「お茶の間」、「キッズ」など理念的には分けられるが、分割するより一体で、全国ネットワークを生かした方が良いと思っている。

 ——店舗網の整理は。

 東畠敏明氏 閉鎖している教室もあるが、スポンサーと相談する。いらない教室は、家主に迷惑をかけるので解約する。

 ——新株予約権発行など不透明な資金調達がみられる。

 高橋氏 前社長が走り回って処理した。何とか株を運転資金に回そうとしたようだ。

 ——不透明な資金繰りが今回の申請につながったのか。

 高橋氏 そう思ってもらってかまわない。

 ——経済産業省の対応をどう思うか。

 高橋氏 経産省も含めて数々の行政指導があり、経営悪化の原因になったが、根本はNOVAの経営体制が悪かった。今後は協力や指導をあおぎたい。

 ——前社長への刑事、民事での責任追及は?

 東畠氏 前社長個人から問題点について聞き取りたい。さらに法律的に分析して、損害賠償請求、その次の段階へと、通常の手段をとる。

 ——猿橋氏と連絡はとれているのか。

 東畠氏 携帯に連絡を入れているが出ない。東京方面にいると聞いている。

 ——受講生の受講料の返還や従業員の給料はどうなるのか。

 東畠氏 支援企業が現れたら、未使用分の授業料を生かして契約できないか考えている。従業員の給料は優先債権なのでお金のある限り優先的に支払う。

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 業界内では、今回の失敗は無理な拡大路線が招いた「NOVA固有の問題」と見る向きがほとんどだ。経済産業省や文部科学省は生徒の受け入れに業界団体の協力を求める考えだが、「あれだけ肥大化した生徒や講師、教室を引き受けられる同業者はいないはずだ」(業界大手)と冷ややかだ。

 大手の「ジオス」などが加盟する業界団体、民間語学教育事業者協議会の畠中邦雄副理事長は「救済といわれても、NOVAは会員でもない。どうすればいいのか」と困惑気味だ。NOVAはこの団体の設立時に興味を示したが、倫理規定などの縛りもあって、結局、加盟せず、どの業界団体とも距離を置いた存在だった。

 この団体に加盟していたラド・インターナショナル(東京)が今年4月に破綻(はたん)した際には、一部の受講生に対して、協会加盟校での無料受講を実施。だが今回は、「20万人を超える受講生では物理的にも救済が不可能なことは自明だ」(畠中氏)という。

 「イーオン」などが加盟する全国外国語教育振興協会でも「今は静観するしかない」(桜林正巳事務局長)という。「経営戦略や経営規模も違い、加盟企業で支援に名乗りを上げるところはないだろう」(桜林氏)と見る。

 企業再生に詳しいある弁護士は「30万人といわれる受講者も債権者。更生計画案ができても、一人ひとりに賛同を求めるのは容易でなく、計画がスムーズに進むことは難しい」と指摘する。

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 「30万人の生徒と全国に店舗網を持つ事業価値を評価してくれる支援先を探したい。勝負は長くても1カ月だ」

 26日午後、大阪市内で開かれた記者会見。保全管理人に選任された東畠敏明弁護士は、支援先探しの期限をそう強調した。

 NOVA内部ではこれまで、流通大手のイオンや丸井、IT関連のヤフーや楽天などが支援候補として浮上してきた。東畠弁護士は、すでにある企業から支援の打診を受けていることを明らかにした上で「同じような条件なら早く打診を受けた企業を優先する」と話した。

 会見ではそんな強気な姿勢も示されたが、支援候補との協議は難航することが予想される。NOVAは、1カ月の従業員給与だけで15億円が必要だが、「会社に現金はほとんどない」(金融機関)。短期決戦で足元を見られるのは、NOVA自身だ。

 候補に名前が挙がるイオンは、「英会話学校の運営は当社の成長戦略に入っていない。考える余地はない」(同社広報)と、仮に打診がきても拒否する構えだ。

 「再建手続きの着手がもっと早ければ、有利なスポンサー(支援先)の選定ができたのに」。会見した弁護士の口からは、本音も漏れた。取引銀行からは、「支援先が正確にNOVAの資産査定ができるか疑問だ」との見方もある。

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 保全管理人が「1カ月間」努力しても、支援先が決まらなかった場合、NOVAは破産手続きに移行することになる。まさに「最後のワンチャンスにかける」(保全管理人)状況だ。

 会社更生法は、更生管財人が会社の資産を調べ、更生計画案をまとめる。ただ、計画案は関係人集会で債権総額の2分の1以上を持つ債権者の同意などで可決される。授業料を前払いしている受講生の多くの同意が必要になる。

 最近では、当初は民事再生法を申請して再建を目指したウェブ制作支援のクインランド(神戸市)のケースがある。今月25日、大阪地裁に破産手続きの開始を申し立て、会社の清算を決めた。資金繰りが安定せず、再建の可能性が薄かったためだ。民事再生法の申請から7日後の決断だった。

 NOVAが破産手続きに入れば、受講生が前払いした授業料が全額戻ってくる可能性は極めて低くなる。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200710260076.html