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2007年10月23日(火) 07時36分

肝炎訴訟原告「治療機会奪われた」 薬害肝炎告知なし朝日新聞

 早く告知をしていたら、失わなくてもすんだ命があったはず——。血液製剤でC型肝炎に感染した患者のリストを持ちながら、本人に検査や治療を呼びかけてこなかった厚生労働省と製薬会社の姿勢に、薬害C型肝炎訴訟の原告は22日、怒りの声を上げた。一方の厚労省は今なお、個人情報の保護を理由に患者に関する情報開示をためらっている。

会見で「感染した人がきちんと治療を受けているか心配」と話し、涙ぐむ浅倉美津子さん(手前)ら原告団=22日午後4時18分、厚労省で

 「早期治療の機会を奪われたことは残念で仕方がありません」

 厚労省と製薬会社が持っていた、感染が疑われる「418人リスト」の1人とわかった大阪訴訟原告の40代女性はこの日、代理人を通じてこう語った。症状が悪化、先月半ばから肝硬変で入院中だ。

 86年の出産時、東海地方の産婦人科医院で、止血剤として旧ミドリ十字の血液製剤「フィブリノゲン」を投与され、急性肝炎を発症した。だが、弁護団によると、肝硬変や肝がんに進行する恐れについて、医師は何も言わなかった。女性は「峠を越えれば治る」と思っていたという。

 報道などで疑いを持ち、弁護団に相談したのは04年。製薬会社からは何の連絡もなかった。国は「証拠がない」と、投与事実すら認めてこなかった。

 「418人リスト」はフィブリノゲン投与後に急性肝炎などを発症した事例の一覧。厚労省が02年、ミドリ十字の事業を引き継いだ旧三菱ウェルファーマ(現田辺三菱製薬)から提出を受けて公表した。発症日や症状などだけで患者の個人情報はなかったが、女性は「102A」とされた症例が、自分と酷似していることに気づいて同社に情報開示を請求。同社側は先月、女性が「102A」だったと認めた。

 製薬会社が患者の個人情報を把握している事実が明らかになり、今回の問題の引き金になった。

 東京訴訟原告の浅倉美津子さん(56)は88年にフィブリノゲンを投与された。当時、医師からは「原因不明の肝炎」と言われ、血液製剤を使ったことも告げられなかった。弁護団に相談する02年まで「病気は自分のせい」と思い続けてきた。

 同社側はフィブリノゲンによるC型肝炎感染者を約1万人と推定するが、投与を証明する手がかりを得て原告になったのは170人余にとどまる。

 全国原告団の山口美智子代表(51)は22日の会見で訴えた。「今も感染を知らない人がたくさんいる。厚労省は事実にふたをしたかったのではないか。不作為どころか、悪意としか思えない」

http://www.asahi.com/life/update/1023/TKY200710230003.html