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2007年10月23日(火) 08時00分

薬害肝炎 厚労省の不作為、再び 患者ら「悪意としか思えない」産経新聞

 厚労省や製薬会社が患者の個人情報を持ちながら、告知する努力をせずに放置してきたことが問題化している薬害C型肝炎問題。治療に役立つ可能性のあった情報は、なぜ生かされなかったのか−。関係者らの声を拾っていくと、過去に薬害エイズ事件で厚労省が批判を受けた「行政の不作為」に対する教訓のなさが浮かび上がってくる。(赤堀正卓、鎌田剛)

 22日午後、舛添要一厚生労働相は田辺三菱製薬の葉山夏樹社長を大臣室に迎え、こう切り出した。

 「C型肝炎の発症例リストが出てきたので、1人でも多くの方に検診を受けてもらうことに協力してほしい」

 葉山社長は緊張気味に「誠実、迅速に対応して参ります」と応じた。

 1万人を超える患者がいると推計される薬害C型肝炎。感染の事実や、感染原因を知らない人も少なくないとみられている。告知を決断した理由を舛添厚労相は「1日も早く治療をしていただいて、患者の命を救いたい」と説明した。

 しかし、厚労省や製薬会社が、患者の特定につながる情報を把握したのは平成14年。大臣と社長のやりとりは、5年前にされていてもおかしくはなかった光景だ。

 なぜ、当時の担当者らは告知を考えなかったのか。22日に会見した厚労省医薬食品局の中沢一隆総務課長は「当時、(汚染製剤が使われた可能性のある)医療機関名は公表すべきだという指摘はあったが、患者に告知すべきという議論や指摘はなかった」と説明。当時の厚労省の責任について質問が及ぶと「それは舛添大臣に聞いてほしい」と回答を避けた。

 そこからは、告知がされなかったのは「怠慢」でも「放置」でもないという厚労省の立ち位置が見えてくる。

 スタンスは製薬会社側も同じだ。舛添厚労相との面会を終えた田辺三菱製薬の小峰健嗣副社長は「医療機関名を公表して広範囲に呼びかけをするのがより妥当だった。それは有識者会議、厚労省の判断であり、最善の策だった」と落ち度がないことを強調した。

 「不作為」に正当性を持たせようとする厚労省や製薬会社の姿勢に、薬害肝炎訴訟の原告らC型肝炎の患者らは「『不作為』どころか『悪意』としか思えない」と猛反発している。

 薬害肝炎全国弁護団代表で、東京HIV訴訟弁護団の事務局長も務める鈴木利広弁護士は「サリドマイド事件や薬害エイズ事件など、国はいくつもの薬害を引き起こしているが、全く教訓が生かされていない。今回も患者への告知や実態調査をする機会は何度もあったはずだ」と批判する。

 薬害エイズ事件では、被害拡大を防げなかった当時の厚生省の課長の「不作為」が社会から厳しい批判を受けた。裁判所も「(厚労省の担当者には)被害発生防止のための措置を講ずべき義務や、関係部局に働きかける義務が生じる」(東京高裁)と指摘。行政の「不作為」が過失にあたると判断し、国側に反省を促す判決が出された過去がある。

 今回の問題には厚労省内からも「過去の教訓が生かされたとはいえない対応だった」という声が出ている。厚労省内に22日に設置されたプロジェクトチームでは「道義的、法的な問題」までを検証の視野に入れるという。どこまで「不作為」にメスを入れることができるのか。検証は1カ月をめどにまとめられる予定になっている。


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