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2007年10月21日(日) 16時52分

「行列ができる」林業家、見学者20年で2500人超朝日新聞

 全国からの訪問が絶えない林業家が大阪にいる。大阪府千早赤阪村で山林を経営して約60年になる大橋慶三郎さん(79)=大阪市東住吉区。林の中の作業道づくりの第一人者で、見学に訪れた人はこの20年で2500人を超える。10月には作業道づくりの解説書も出版。後継者不足と荒廃が進む日本の山林を守るために執念を燃やしている。

 「うちの山より急なのに。道があっちにもこっちにもあるなあ」。今月上旬、山を訪れた京都府京丹波町の林業関係者10人が声を上げた。

 奈良県境にある大和葛城山の南西斜面。ヒノキが9割を占める約100ヘクタールが大橋さんの山だ。500メートルの標高差を軽トラックでぐんぐん上がる。その幹線から、葉脈のようになだらかな支線が張り巡らされている。幹線2.4キロはコンクリート舗装。支線は間伐材を使って補強している。

 1ヘクタールあたりの作業道は247メートルで、一般的な山林に比べると高密度だ。2トントラックが通れる幅を確保し、車で山のすみずみに入れるため、少人数での林業を可能にし、間伐などの手入れも行き届くという。「崩れないよう考えていたら、道は葉脈のようになった。自然が手本だった」と大橋さんは言う。

 「人間でいう背骨が尾根。勾配(こうばい)が少々急でも安定している」。等高線図の曲がりくねった所は「大昔から変動を受けてきた複雑な地質」、薄い所は「地質がもろい」など自然を観察し、法則を見つけてきた。

 山に入ったのは49年。西風と西日が強く、生育条件は悪かった。10年がかりで車が通れる道をつけ、手入れの届いた高品質の木材を生産して専門誌などで注目を集めた。

 視察の男性たちは「この山は、道をつくって林業をやろうとする者の聖地」「うちの山は道が少なく歩いての作業で大変。まずは道づくりから始めたい」と話した。

 府森林課に記録が残る88年以降だけで視察は2500人以上。山梨や兵庫など府外での指導や研修の講師にも引っ張りだこで、05年からは視察は月2回に限るほどだ。

 全国の林業就業者は05年で5万人だが10年前に比べ4万人減少。65歳以上が19%から28%に増えた。輸入材に押され木材価格も低迷している。こうした中、作業道への注目は高まっているが、間違った知識で山を崩壊させる事例も少なくない。

 奈良・吉野の弟子、岡橋清元さん(58)と出版した「写真図解 作業道づくり」(発行・全国林業改良普及協会)では、写真や等高線図をふんだんに使い、計画から施工まで手厚く解説した。

 娘の寺井みどりさん(53)が林業家として後に続く。「父がつけた道のおかげで、私でも簡単に山に入り、いろんな仕事ができるんです」

 大橋さんは「道がなければこれからの林業は成り立たない。元気なうちはがんばりたい」と話している。

http://www.asahi.com/national/update/1021/OSK200710210007.html