記事登録
2007年10月19日(金) 13時57分

防衛省震撼「山田洋行」の闇(下)FACTA


■銀行の不良債権処理「ダミー役」で生き残り

西川善文(三井住友銀行前頭取、現日本郵政社長)と山田正志(山田洋行グループ相談役)の付き合いは30年以上にも及ぶという。85年に西川が丸の内支店長になると、親密度はさらに増し、それ以後、山田案件は「丸の内支店長案件」として住銀内部で特別な扱いを受ける。安宅産業の処理で水産部門を購入したのは山田グループだったし、イトマン案件の処理でも山田は協力している。

東京・南青山にある17階建てのTK青山ビル。青山通りに面するこの場所は、600億円もの資金を投じながら虫食いの不良債権として残り、イトマン破綻の一因ともなった。結局、03年に不良債権が受け皿会社に移され、土地・建物を収益物件に仕立て上げる手法で外資系ファンドに売却されたのだが、地上げの仕上げに関わったのが山田グループの関連会社、山田キャピタルなのだ。

バブル崩壊でかつての後ろ盾、東京相和の長田が追い詰められていくなかで、山田は巧みに西川にスイッチし、「銀行のダミー役」を果たすことで延命を図った。ほかにも旧平和相互銀行の「負の遺産」である渋谷のスポーツクラブ、事件モノとなった新橋の土地……そんな旧住銀絡みの怪しい履歴に終止符を打つべく乗り込むのは山田グループ、事業化までの面倒を見るのが現三井住友銀行というケースは山とあった。

しかし、この使い勝手のいい二人三脚が永久に続くはずもない。山田は引退の時を迎えて経営を息子の真嗣に委ね、西川は05年6月に頭取を退任、その直前に「西川案件」を抱えた融資三部は消滅している。西川は退任を見越して「外部人脈」の幕引きを進めたともいえよう。

西川の退任に合わせるかのようにグループの中核企業「弥生不動産」は113億円の債務を抱えて整理回収機構(RCC)に移管され、04年3月までに弁済案が了承された。

総帥山田はグループ17社の全役職を退任、37億円を弁済一時金として支払い、30億円は12年間の分割払い、残り46億円の債権をRCCは放棄するというものだった。三井住友銀は37億円の一時金のうち30億円を融資する形で“支援”したという。三井住友銀の担保に入っていた山田洋行株が売却されようとしたのは、当然のなりゆきだろう。

不動産事業を死守しようとする判断に異を唱えた宮崎は、防衛省のみならず防衛族議員らを引き込んで、巻き返しを図ろうとした。が、それはかなわなかった。銀行と組んだオーナーが抱える「負の清算」に巻き込まれ、防衛商戦とは縁のないところで起きたこの内紛で、山田洋行は一転、防衛省の火薬庫となった。

防衛省は何より秘匿を重んじ、トラブルを嫌がる。それを承知でなぜ事を構えたのか。山田洋行の野村裕幸社長室長が答えた。

「日本ミライズからの攻撃を一方的に受けているのは当社です。営業を中心に30名もの社員が一斉に退職すれば存亡の危機。しかも商権を持っていこうとしているんだから、とんでもない話です。同業他社への移籍を禁じた『就業規則』にも違反します。訴訟は、あまりに理不尽な攻撃を仕掛けてきた彼らに対するやむにやまれぬ措置なんです」

CXのGE製エンジンはいったいどちらが扱うのかと尋ねると、野村氏は「守秘義務」を理由に微妙な表現にとどめた。「何を根拠に日本ミライズが『内定』と言っているのかよく分かりません。私どもは今もGEの代理店なんです。それだけははっきり申し上げておきます」

■ゴルフ場接待など暴露恐れる市ケ谷

装備品調達のA級指定業者の内紛は、装備品の安定供給に支障を及ぼすだけではない。国家機密にも関わる防衛利権の闇が暴かれる可能性を秘めている。かつて山田洋行絡みの案件が衆議院予算委員会で厳しく追及されたことがあった。1993年の細川護煕政権当時で、質問に立ったのは自民党の野中広務、のちの官房長官である。当時一機およそ550億円で購入が決定していたAWACS(早期空中警戒機)購入の経過について、執拗に当時の防衛庁長官中西啓介(故人)を責め立てた。

AWACSのエンジンの補給部品代理店が、実績のあった極東貿易から山田洋行へと“逆転”したからだ。野中の矛先は、航空自衛隊出身で装備畑に絶大な影響力を誇っていた参議院議員田村秀昭(現国民新党)にも向いた。田村が小沢一郎(当時の新生党代表幹事、現民主党代表)の側近だったからである。

今回の山田洋行のお家騒動でも、山田の長男である真嗣、社長となった米津佳彦が連れ立って田村を議員会館に訪ねただけでなく、宮崎らも田村を交えて善後策を練っているという。山田洋行は典型的な「政治銘柄」なのだ。現在の防衛省幹部も火の粉を浴びかねない。山田洋行、つまりは宮崎が、山田グループ経営のゴルフ場で繰り返し行ってきた接待の数々や、それ以上のものが明るみに出るのではないかと気が気でない、という。ネタ探しの地検特捜部には涎の出る案件だろう。(敬称略)

※肩書き等は当時。月刊FACTA6月号(5月20日発売)掲載記事

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071019-00000002-fac-soci