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2007年10月19日(金) 13時57分

防衛省震撼「山田洋行」の闇(中)FACTA


■GEエンジン100基代理店契約を“奪取”?

一方で次期輸送機CXに装備するエンジンは、02年からロールス・ロイス、GE、プラット・アンド・ホイットニーの3社の提案を検討した結果、03年8月にGEの CF6−80C2型エンジンを採用することが決まった。決め手は航空自衛隊へのGEエンジンの納入実績だったが、代理店の座は以前、山田洋行が天下の三井物産からもぎ取っていた。

このエンジン、「カタログ価格」では1基1千万ドル(約12億円)。CXは2010〜20年に50機が配備されることになっており、双発なのでエンジンは100基、合わせれば概算で1千億円台の商権となる。

後述するように、本誌とのインタビューで宮崎は「GE製エンジンの代理店となった」と明言した。日本ミライズが山田洋行から商権を“奪取”したというわけだ。本当なら、洋行が新たな法的措置を取る可能性もある。ミライズも退職金支払いを求めて今年2月、元幹部らが洋行を提訴、泥沼化している。

しかし宮崎の立場は、サラリーマン重役で資産家というわけではない。現に民間調査会社の報告書では「収支については、07年2月末現在、売上が発生しておらず、営業準備段階にとどまっていることから、現状は経費が先行している状況で、運転資金は自己資金内で手当てして繰り回している。営業開拓はゼロからのスタートであり、余力はほぼ限界と思われる」と書かれている。

手厳しい内容だが、古稀を前に宮崎があえて独立した背景には「CXでの採用が決まったGEエンジンの商権を奪い取ることに、絶対の自信があったからではないか」(大手商社防衛担当幹部)という観測もある。

東京・赤坂の溜池交差点の近く、オフィスビルのワンフロアを借り切った日本ミライズの応接室で、宮崎社長は取材に応じた。評判通り物腰は柔らかだが、弁護士を駆使した山田洋行の戦術には、やっぱり苛立っているようだった。

——独立のきっかけは?

「大手証券を通じて会社が売却されそうになったし、親会社の弥生不動産(株式の95%を保有)が起こした債務の弁済のために、30億円を株主配当で吸い上げられた。こうした経営の異常な動きが防衛庁やメーカー側の知るところとなり、社員一同、オーナーの経営に危機感を持った」

——しかし株の大半を握るのは山田グループ。やむを得ないのでは。

「確かにそうだが、防衛産業という特殊性もあり、どこに売却されてもいいというわけではない。だからオーナーと会談し、私がスポンサーを見つけてくる形でのMBO(経営陣による企業買収)を提案した」

——なぜうまくいかなかった?

「買収価格の折り合いがつかなかった。地価が上昇して不良債権処理がスムーズに進み、山田洋行は売却を免れた。『もう一度、山田グループのなかでやったらどうか』という話もあったが、私も、そして私についてきてくれた幹部も、気持ちは完全に山田グループから離れていた。新会社を設立するしかなかった」

——社員の4分の1を引き抜き、商権も取るのは強引では?

「社員は皆、決意して(日本ミライズに)入社している。また、代理店契約は海外メーカーが任命するだけの緩やかなもので、会社というより個人に付随する。ミライズに入社した者は退職金も支払われないことだし、生存をかけて営業している」

——その成果は上がったのか。

「GE社は、山田洋行が起こした訴訟などについて独自に調査、そのうえでCXエンジンの代理店に当社を任命した。山田洋行は顧問弁護士にメーカーなどを訪問させ、当社との取引に訴訟リスクがあることをチラつかせて妨害しているが、このように成果が上がったケースもあり、ホッとしている」

身売りされかけて不信感を募らせた裏には、オーナーの山田が三井住友銀行前頭取の西川善文(現日本郵政社長)の有力な「外部人脈」として知られていたことがある。

外部人脈とは何か——。

「旧住友銀行の融資第三部は、不良債権処理のスペシャリストとして知られ、その部長を務めたことがある西川氏は強烈なリーダーシップを発揮しながら、融資三部などにしこった不良債権を『西川案件』として処理していった。この時、社外の親密企業に追加融資して処理させることもあった。山田グループは、その代表格だ」(旧住友銀行元幹部)

(続く)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071019-00000001-fac-soci