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2007年10月19日(金) 13時57分

防衛省震撼「山田洋行」の闇(上)FACTA

10月19日付の朝日新聞と産経新聞の朝刊は、防衛省と防衛専門商社「山田洋行」の癒着疑惑を報じた。朝日は前防衛事務次官、守屋武昌氏と山田洋行元専務が多数回にわたって一緒にゴルフを楽しみ、自衛隊員倫理規定違反の疑いがあること、産経はこの元専務に特別背任の疑いがあり、東京地検特捜部が事情聴取を進めていることを報じている。

同日朝の民放ニュースショーでは、レポーターが「この疑惑は6月に一部で報じられており、関係者の注目を集めていた」と述べた。この「一部」とは月刊FACTA6月号(5月20日発売)である。当時、守屋氏はまだ現職の事務次官であり、「防衛省の天皇」と呼ばれる実力者だった。新聞に約5カ月先んじたこのスクープをここに再録する。

FACTAは9月号(8月20日発売)でも、守屋氏が解任された小池百合子前防衛相との角逐の裏側に、この山田洋行疑惑があることをいち早く報じている。旧住友銀行(現在の三井住友銀行)の不良債権処理にまで広がる根の深い問題であり、防衛省をめぐるスキャンダルの根っこは、FACTAの記事によってこの赤い糸を手繰らなければ理解できない。

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1千億円商権争奪で内紛泥沼化。次期輸送機CX利権と、旧住友銀行「西川案件」の暗部が浮かぶ。



2005年11月、ライブドア社長だった堀江貴文のもとに、一つの買収案件が持ち込まれた。持ち込んだ人物の名前は川上八巳(やつみ)。パチンコ情報提供会社「梁山泊」を舞台にした株価操縦で逮捕された闇の投資家である(FACTA5月号「京都大に忍び寄った『闇の紳士』」参照)。

川上からライブドア幹部を通じて打診された案件に、堀江は興味津々で耳を傾け、笑みを浮かべたという。

「武器商人みたいな会社じゃん。面白そう……」

買収金額はおよそ200億円。約2カ月後に堀江が逮捕され、この買収話は幻になったが、このとき彼が「武器商人」と評したのが山田洋行だ。

売上高(2006年3月期)340億円余り、関連会社出向を含めて社員約150人の防衛専門商社だが、防衛省が指定するA級競争入札業者(売上実績から防衛省が設けたA〜E5段階基準の最上位)である。

その山田洋行で起きた内紛劇に密かに戦々恐々としているのが、久間章生防衛相や、就任4年目の“天皇”守屋武昌事務次官ら防衛省幹部だという。「庁」から「省」に昇格したばかりの市ケ谷の関係者が嘆息する。

「防衛商戦は日米防衛メーカーの複雑な権利関係の調整の場であり、秘匿性が重んじられる。中堅とはいえ山田洋行は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の代理店として次期輸送機CXのエンジン調達に絡むなど、重要なポジションを占めている。そんな要の商社で起きた内紛が、双方の“刺し合い”と暴露で、スキャンダルに発展することも考えられるだけに、危険極まりないんだ」

この内紛は洋行が属する山田グループの二面性に発するだけに根が深い。同グループの中興の祖と呼ばれるのは、現在グループ全体の相談役であるオーナー、山田正志(真早志と名乗ることもある)。山田自身は「ゴルフと不動産の人」(ある不動産会社代表の話)。旧東京相和銀行(99年破綻、現東京スター銀行)の元会長で、金融界の裏面史には欠かせない長田庄一(00年に不正融資で逮捕)の知遇を得たことで飛躍、多角的な企業群を傘下に収める現在のグループの礎をつくっている。

■不動産グループから飛び出して独立

その山田が、母の経営していた貸しビル業の山田洋行と別の商社「山田洋行」を設立したのは1969年。畑違いだけに、設立時から防衛庁OBの宮崎元伸(前専務、93年には代表権を与えた)に経営を委ねてきた。

かゆいところに手の届くサービスで制服組の信頼を得た山田洋行の今日は、宮崎あればこそ。「社内では超ワンマン。対外的には腰の低いやり手営業マンで、防衛省人脈は驚くほど広い」と前出の関係者は言う。

今回の内紛は、山田グループの不良債権処理の過程でオーナーの山田が洋行の売却交渉を始めたところに端を発する。堀江に話が持ち込まれたのもそのころだろう。結局、不動産市況の好転で洋行を処分する必要はなくなったが、山田一族に不信感を抱いた宮崎は昨年6月に洋行を退社、9月には自ら「日本ミライズ」を立ち上げ、腹心だった洋行の中核メンバー約30人を引き抜いた。

山田洋行の営業機能は麻痺、商権を奪われる恐れも出てきて同社は昨年10月30日、宮崎らに10億円の損害賠償請求訴訟を起こした。

訴状にその理由が書かれている。

「原告会社の業務は、防衛関連機器の輸入販売が主体であり、その特殊性から販売計画は相当程度に確実性がある。原告会社の営業部門の総人員は66 名、退職者は22名。業務が特殊であり、新規採用者が即戦力にはなりにくい状況であることを勘案すれば、今後の収益には人員減が、直接影響を与える蓋然性はきわめて高い」

この「販売計画に確実性がある」というのが「1千億円CXエンジン商権」である。防衛省は現在の戦術輸送機である国産C1とロッキード製の C130Hが耐用年数を迎えるため後継機を検討、00年に中型戦術輸送機の国産化を決定した。そのうえで航空機メーカーを公募し、応募8社の仕様などを比較検討のうえ、01年11月に川崎重工業を主契約者に選定している。

(続く)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071019-00000000-fac-soci