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2007年10月18日(木) 10時51分

オフィスはSkype 「ギリギリ狙う」5人のベンチャー「ロケ☆スタ」ITmediaニュース

 都内に小さなオフィスを借りたが、「誰も出社しないだろう」と社長は言う。「オフィスがないと、会社を登記できなくて。本当はいらないんですが」

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 10月に設立予定の新会社「ロケットスタート」(ロケ☆スタ)は、古川健介社長(26)が率いる総勢5人のIT企業。オフィスは都内に構えたが、1週間に1度も使わない。「Skype」のグループチャットで四六時中“会ってる”から、顔を合わせなくても大丈夫だという。「リアルで話したのかSkypeだったのか、分からなくなることがよくあって」(古川さん)

 集まった5人はそれぞれ、コーディングからデザイン、サービスリリース、ビジネス化まで1人でできる“一匹狼”のクリエイター。ロケ☆スタでは、そんな5人がSkypeを通じてゆるくつながり、お互いのサービスを磨き合う。

 「普通の会社にはできないような『ギリギリ』で面白いサービスを作りたい」と古川さんは言う。「YouTubeやニコニコ動画もそうだったけれど、ギリギリのことをやらないと、新しいものは生まれないから」

●「したらば」運営者に字幕.in社長——メンバーは「変」

 「設備も資本もありません。ただ、メンバーだけは変なのが集まってます」——会社説明にこううたう。

 社長の古川さんは、レンタル掲示板「したらばJBBS」の運営や、学生コミュニティー「ミルクカフェ」を設立した経験を持つ会社員。4人の取締役には「字幕.in」社長の矢野さとるさん(26)、ライブドアでSNSを開発した水波桂さん(24)(現在は別のIT企業勤務)、大手メーカー出身で、携帯電話向けシステム開発ベンチャー・クレイジーワークス「総裁」の村上福之さん(32)、動画システムなどを開発するジオマックス副社長の伊藤彰男さん(25)を迎えた。

 5人をつないだのはネットだ。古川さんは、矢野さんと7年ほど前にネット掲示板で出会い、水波さんとはSNSから生まれた“IT劇団”「ブサイコロジカル。」で親しくなった。村上さん、伊藤さんは、矢野さんのネット事業に絡んで知り合ったという。

●1人でもできるけど

 5人とも、個人でサービスを作ってリリースしてきた経験を持ち、矢野さんと村上さんは2人で「写メちぇけ!」を作るなど、サービスを共同構築したこともある。サービス構築だけなら会社でなくてもできるはず。それでも会社にしたのは「持続できるサービスを作りたい」からだ。

 「面白いサービスを作りたい。でも面白いだけじゃつまらない」(古川さん)——個人運営だと、面白いサービスをリリースしても、メンテナンスできずに閉鎖してしまったり、ビジネス化の可能性があってもなかなか動けなかったりする。企業体にすることでそんな問題を解決し、「持続できる面白サービス」を目指す。

 「会社化して覚悟を決めたい」(古川さん)という思いもあった。「1人でやっていると、ひたすら練り続けてしまって結果につながらないことが多かったが、サービスはスタートさせないと意味がないから」(古川さん)。社名の「ロケットスタート」には「とにかくスタートさせよう」という思いを込めた。1カ月に1人1サービスがルール。5人で年間60のサービスを構築できる計算だ。

 5人とも共同作業が苦手で、何でも1人でやってしまうタイプ。社内では1人が1つ「制作部」を持って単独で作業を進めつつ、他メンバーが開発中のサービスをSkype経由でサポートする。

 「あくまで自分の作業をしながら、誰かのサービスを勝手にサポートしていく、という作り方。みんな他人の作業を待つのが苦手で、全部1人でやりたがるから」(古川さん)

 同社の最初の「事業」は、マグカップとTシャツ販売。実はすでに発売している。「『会社のイメージキャラが欲しいね』とSkypeで話していたら、5分後に水波くんがキャラを作ってくれ、10分後にはぼくがマグカップとTシャツにして、15分後にはドロップシッピングサイトで売って、20分後には2人で買った」。そんなスピード感で、サービスも構築する。

●リアルよりSkypeのほうがいい

 コミュニケーションはSkypeが一番。リアルの会話よりも便利といい、実際に会って話しながらSkypeでチャットもする——という“ハイブリッドな”コミュニケーションもしているという。「リアルの会話は、履歴を検索できないのが不便で」(古川さん)。Skypeならグループチャットの履歴が蓄積されていくから、オフラインのメンバーも後から履歴を確認できる。

 「リアルの会話にコードは貼れないから」(村上さん)——Skypeで「このコードで何で動かないんだろう」と見せ合ったり、URLやファイルをやりとりしながら、サービスを共同構築していく。

 「それでも対面で会った方がいいと思って」、古川さんは1週間に1日、みんなでオフィスに集まる日を決めた。だが「みんな来ない。鍵を持ってる(矢野)さとるくんが来るまで、オフィス前の道ばたで、1人PCかかえて待ってたりとか……」

●「ギリギリ」のことをやらないと、新しいものは生まれない

 ロケ☆スタのサービス第1弾は、矢野さんが開発し、古川さんがロゴをデザインした「yadio.jp」(ヤジオ)。ネット上に公開されたMP3ファイルを聞きながら、任意のタイミングでコメントを付けられるサービスだ。いわば「ニコニコ動画」の動画なし版で、MP3のURLを指定するだけで利用できる手軽さが売り。「まだあまり聴かれていないポッドキャストを、ブレイクさせるきっかけになれるのでは」(水波さん)

 矢野さんが開発した、YouTube動画に落書きできるサービス「落書き.in」など、メンバーが個人で構築してきたサービスも順次ロケ☆スタのメニューに加え、さらに発展させていく計画だ。

 「普通の会社にはできない、ギリギリのことをやっていきたい」——古川さんは気負いなく言う。想定するのはYouTubeやニコニコ動画。著作権に絡む問題が浮上するなど「ギリギリ」のサービスだったが大ブレイクし、ネットの世界をガラリと変えた。「ギリギリのことをやらないと、新しいものは生まれないから」(古川さん)

 具体的なビジネスプランはまだないが、5人ともネットビジネスの経験は豊富。「現実的なラインで、1人年間1000万円、5人で5000万円ぐらいは稼げるのでは」(水波さん)と読む。海外進出も視野に入れ、英語版サービスも日本語と同じペースで構築していく。

 会社としての目標は、特に設定していないという。「『Yahoo!JAPANを追い抜けるようなサービスを作りたい』という話はするが、『いつか○○したい』という遠い将来の話はあまりしない。今やりたい→今つくろう→今リリース!という感じ」(古川さん)

 当面の目標は「社員がフルコミットしても食べていけるぐらい稼ぐ」(古川さん)こと。今は5人とも別に本業を持っているが、2人くらいは本業を辞めてロケ☆スタに専念できるよう、面白いサービスを作りながら、ある程度の利益を出していきたいという。

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