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2007年10月17日(水) 18時28分

2008年、迷惑メール送信が違法になる読売新聞

 迷惑メール(スパム)送信をすべて禁止する法律が誕生しようとしている。総務省の研究会が、受信者の承諾なしに広告・宣伝メールを送ることを禁止する中間報告案をまとめた。経済産業省でも同様の法律改正を検討しており、2008年には「迷惑メール送信=違法」になる可能性が高い(テクニカルライター・三上洋)。

今までの迷惑メール規制は有名無実

 法律での迷惑メール規制は2002年からスタートしており、その後も規制強化のために何度か改正されている。しかしご存知のように迷惑メールは増えるばかり。総務省の特定電子メール送信適正化法で摘発されたのは、今までにわずか3件しかない(読売新聞10月17日朝刊による)。実質的な効果はゼロに近かった。

 法律の効果がゼロだった理由はいくつかあるが、最も大きいのは送信自体を禁止していないことにあった。無差別に送る宣伝メールであっても、タイトルに「未承諾広告※」を付け、受信拒否のしくみを用意すれば、大量送信できていたからである。また摘発例が少数だったため、法律を無視して送信し続ける業者も多かった。

 それに対して、現在検討中の改正案では、迷惑メールの送信自体が禁止される見込みだ。2007年8月から行われている総務省の「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会」では、ユーザーの承諾なしに広告・宣伝メールを送信することを禁止する中間報告案をまとめている。この後、パブリックコメントにかけられ、来年の通常国会に提出される。

 迷惑メール対策の法律は経済産業省にもあるが、こちらも規制を強化し、承諾なしでメールを送ることを禁ずるように改正される見込みだ。これらの改正が国会を通れば、2008年には迷惑メール(スパム)の送信自体が違法となる。画期的な改正と言えるだろう。

「オプトアウト方式」と「オプトイン方式」

 今までの迷惑メール対策の法律では、「オプトアウト方式」の広告・宣伝メールが許されていた。オプトアウト方式とは、承諾なしで送信しつつも、ユーザーに受信拒否のしくみを提供する方式のこと。メールに受信拒否の方法が書いてあれば、無差別に送りつけることができた。

 今回の改正では、「オプトイン方式」でメール送信だけが許される。オプトイン方式とは、事前にユーザーの承諾をもらってからメールを送信する方式のこと。つまりユーザーが申し込んだ広告・宣伝メールだけしか送信できなくなる。

 パソコンでの迷惑メールの多くは、ネットで自動収集したメールアドレス、名簿屋・リスト販売業者から入手したアドレスなどへ無差別に送られている。オプトイン方式だけ有効となれば、これらの無差別送信はすべて違法になる。迷惑メールが減るかどうかはわからないが、違法行為だと明示することで、送信業者へのブレーキにはなるだろう。

問題は海外サーバー利用と送信代行業者

 日本国内からの迷惑メール送信は、目に見えて少なくなってきている。財団法人日本産業協会の調査データによれば、2007年1月には迷惑メール全体に対する国内発の比率が50%を超えていたが、2007年9月にはわずか8.5%と大幅に減った。


財団法人日本産業協会による迷惑メールの統計(2007年9月)。国内発は大幅に減少したが、海外発の迷惑メールが急増している
http://www.nissankyo.or.jp/mail/graph/graph.html)。

 これは国内での迷惑メール対策技術が浸透したためだ。プロバイダーやレンタルサーバー会社が、OP25B(正規のメールサーバー以外を使った送信を阻止)、送信ドメイン認証(送信元詐称を防ぐ)などの技術を導入している。これにより迷惑メール送信業者は、国内からの送信が難しくなった。

 それに対して、海外サーバーを使った迷惑メール送信が急激に増えている。グラフを見てもわかるとおり、国内発が減った分だけ海外発の迷惑メールが増えており、全体に占める割合は90%を超えている。日本語の広告メールであっても、送信元は海外という例が増えてきた。

 日本産業協会のデータによれば、海外でもっとも増えているのが中国発の迷惑メールだ。中国発の迷惑メールは、昨年に比べて倍増している(http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20071004nt09.htm)。2007年1月には、中国から出会い系サイトの広告を送っていた日本人が逮捕されている。中国に置いた128台のパソコンから、約54億通もの迷惑メールを送ったという容疑だ。これは出会い系サイト運営業者が自ら送信していた例だが、メール送信代行業者も暗躍しているようだ。

 メール送信代行業者は、出会い系サイトやアダルトサイトなどの宣伝メールを大量送信するサービスを提供している。数万通、数十万通単位で請け負うのが一般的だ。さらに最近では、迷惑メール対策や規制をすり抜けるためのノウハウまで販売している。例えば下記のように、

・海外メールサーバー貸与

規制がなく対策が甘い海外サーバーを用意。請け負った宣伝メールを、日本国内に向けて送信

・開封確認情報提供

HTMLメール(ブラウザーで見るメール)を使って、ユーザーが開いたかどうかをチェック。開封を確認したユーザーのリストを提供する。

・フィルター避け対策

迷惑メールフィルターをすり抜ける文面を用意。文面作成を請け負ったり、フィルターに引っかからないためのアドバイス提供。

 などを行っている業者がある。また以前にも触れたが、ボットネットからの送信(ウイルスに感染したパソコンを踏み台にして迷惑メール送信)も増えている(スパムは儲かるアングラビジネス?を参照)。海外サーバーやボットネットの利用による迷惑メールは、今後さら増えるだろう。

悪質な詐欺的広告メールが増える?

 もう1つ心配なことがある。それは法律改正・対策強化によって迷惑メールが減ったとしても、悪質な詐欺メールは逆に増えるのではないか、という不安だ。

 ケータイでの迷惑メールがその実例である。携帯電話会社の対策により、ユーザーに届く迷惑メールは非常に少なくなった。きちんと対策すればゼロに近くなるのだが、それでもごくまれに迷惑メールが届く。それは送信側が高いお金をかけている場合だ。例えば迷惑メール送信のためだけにケータイを新規契約し、打ち切られるまで迷惑メールを送信、という金のかかる方法を使う。業者が負担する1通あたりのコストは非常に高い。

 なぜこんな高いコストをかけてまで迷惑メールを送信できるのか。その答えは単純で「詐欺で儲かるから」。ワンクリック詐欺、架空請求などで高い金銭をだまし取る目的があるからこそ、高いコストをかけて迷惑メールを送信できるのだ。

 ケータイでの一般的な広告・宣伝メールは、規制と対策により減少した。しかしそれをすり抜けて届くものは、詐欺などの悪質なもの。現時点でケータイに勝手に届く迷惑メールは、9割以上が詐欺だといってもいい。

 これと同じことがパソコンあてのメールで起きることが怖い。実際にパソコンあての迷惑メールでは、ワンクリック詐欺やフィッシング詐欺が増えてきている(広告誘導型のワンクリック詐欺に注意!を参照)。規制や対策が進むからと言って安心はできない。プロバイダーの対策サービスや、以前に紹介したGmailフィルターなどを使って、迷惑メールを排除しよう。

http://www.yomiuri.co.jp/net/security/goshinjyutsu/20071017nt10.htm