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2007年10月14日(日) 00時00分

法テラス長崎開業1年、成果と課題読売新聞

 法律問題の解決に必要な情報提供やサービスが受けられる日本司法支援センター長崎地方事務所(愛称・法テラス長崎)が今月で開業1年を迎えた。県民が気軽に利用できる「法律の総合案内所」としてスタートした法テラス長崎の現状と課題を追った。(松本晋太郎)

 長崎市栄町の長崎MSビル2階にある法テラス長崎。司法書士、裁判所や消費者センターのOBら9人の非常勤職員が日替わりで、法制度や相談先の紹介などにあたる。また、経済的な余裕がない人を対象にした「民事法律扶助」として、毎週水曜日に弁護士が無料で相談に応じ、裁判や弁護費用なども法テラスが立て替える。

 この1年間で受け付けた法律相談は2224件。うち3分の2にあたる1450件が多重債務や破産に関する相談。損害賠償などの金銭トラブルが302件、離婚が261件と続いた。民事法律扶助の中で、実際に裁判費用の立て替えなどをした「代理援助」は724件だった。

 法テラス発足前にこうした業務を行っていた法律扶助協会県支部が2005年度に受け付けた法律相談は1261件だったため、相談件数は1・7倍に増加。代理援助も同様に増えているという。

 しかし、法テラス長崎所長の福崎博孝弁護士は「まだまだ法律の援助を必要とする人は埋もれている」と指摘する。民事法律扶助の申し込みの多くが長崎市やその近郊で、佐世保市の弁護士が担当した業務は全体の十数%。県北での知名度不足など浸透度に地域差が表れている。

 国選弁護制度の運営も法テラスの重要な業務の一つだが、今後、業務量の増加が見込まれる。昨年10月の制度改正に伴い、起訴後に限られていた国選弁護人が、殺人や強盗などの重大事件の場合は、逮捕段階で選任できるようになった。さらに、09年にはほとんどの刑事事件にまで適用が拡大される。

 また、同じ年に導入が予定されている裁判員制度が始まれば、連日公判が開かれるようになる。福崎所長は、法テラスのスタッフ不足とともに、県全体での弁護士不足にも危機感を強めている。「長崎で修習を受ける司法修習生に積極的に県内での独立を働きかけ、法テラスのスタッフ弁護士の充実にもつなげたい」と言う。

 一方、離島など「司法過疎地域」では、法テラスへの期待は大きい。裁判所があるにもかかわらず、弁護士がいなかった壱岐市では昨年10月、弁護士1人が常駐する「法テラス壱岐法律事務所」が業務を開始。今年9月末までに327件の相談が寄せられた。

 長崎地裁壱岐支部の民事訴訟受理件数は、07年1〜8月で17件あり、昨年同期の3件に比べ大幅増。同時期の壱岐簡裁の受理件数も40件と16件増えた。古森淳志・法テラス長崎事務局長は「弁護士ゼロだった地域の需要が掘り起こされた」と評価する。

 高齢者の割合が高い離島だが、成年後見制度など高齢者に関係ある相談の件数は少なく、壱岐に常駐する浦崎寛泰弁護士は「社会福祉士らとも意見交換するなどしてニーズを掘り起こしていきたい」と意欲的だ。さらに、壱岐市内の中学、高校で法教育の授業も計画している。

 県民に浸透し、法律を身近に感じさせる存在となれるのか。法テラスの試行錯誤の取り組みは続く。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagasaki/news001.htm