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2007年10月11日(木) 15時06分

<自殺サイト嘱託殺人>処方せん悪用、睡眠導入剤入手か毎日新聞

 携帯電話の自殺掲示板サイトに書き込みをした川崎市高津区の派遣会社員、西沢さやかさん(21)が殺された事件で、嘱託殺人容疑で再逮捕された千葉県市原市五井西、電気工、斉藤一成容疑者(33)は他人の処方せんを悪用して睡眠導入剤を入手、販売した疑いがあることが神奈川県警捜査1課と高津署の調べで分かった。十数人に販売し、うち1人は自殺していた。斉藤容疑者はギャンブルなどで約200万円の借金を抱え「金欲しさから掲示板サイトを開設した」と供述しているという。【堀智行、山衛守剛】
 調べでは、斉藤容疑者は06年6月、携帯電話の無料掲示板を使い自殺掲示板サイトを開設。「デスパ」というハンドルネーム(ネット上の名前)を使い「向精神薬売ります」などと呼びかけ、埼玉、兵庫両県などの十数人に処方せんが必要な「ハルシオン」などの睡眠導入剤を販売したとして今年7月24日、麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕された。本人に処方せんが出された形跡はなく、同課などは知人に出された処方せんを悪用して薬剤を入手、販売していたとみている。
 斉藤容疑者は掲示板で「殺したい程嫌なヤツがいる。イク手伝いをしてほしい。何でも相談ください」「大概の仕事は請け負います。請け負い料は仕事により変わりますので、連絡をいただければ見積もり致します」とも呼びかけていた。4000円〜数万円程度の料金を請求し、携帯電話のメールで交渉後、依頼者から代金が振り込まれるのを確認した上で「仕事」を実行に移していたという。金銭への強い執着がうかがえ、同課などは斉藤容疑者が借金返済のため書き込み内容をエスカレートさせていったとの見方を強めている。
 同課によると、斉藤容疑者は生前の西沢さんにメールで「薬を使ったら楽に死ねる」などと具体的なアドバイスをしていた。西沢さんは睡眠導入剤20〜30錠を飲まされたうえポリ袋を顔にかぶせられて窒息死したとみられるが、ポリ袋について斉藤容疑者は「部屋にあったものを使った」と供述しているといい、当初は薬で殺害しようとした疑いもある。さらに西沢さんの携帯電話がなくなっており、斉藤容疑者が自らの関与を隠すため持ち去った可能性もあるとみて追及する。
 ◇「いいお父さん」別の顔
 短い金髪の子煩悩なお父さん——。斉藤容疑者を知る人の多くはそう口をそろえる。一方で、普段の生活の中でも攻撃的な一面をのぞかせる時もあったという。
 斉藤容疑者は千葉県市原市内のアパートで妻、小学生の娘と3人暮らし。近くに住む主婦(51)は「愛想がよく、社交的で物腰も穏やかだった。スーパーで家族仲良く買い物をしたり、娘やその友だちとボール遊びをしたり、自転車の練習を手伝ってあげたりするのもよく見かけた。いいお父さんという感じ」と話す。
 別の主婦(41)も「よく子どもと一緒にいて、かわいがっていた。子煩悩な印象」と話す一方で「『子ども同士のトラブルに割って入って、親や学校に怒鳴り込むようなことがしばしばあった』という話も聞いた。自分の娘が同級生だったら少しつき合いにくかったかも」と話した。
 同じアパートに住む男性は「夜、アパートの駐車場に車を止めてずっと携帯電話をいじっている姿をよく見かけた。何をしてるんだろうと気になっていた」と話した。アパート管理会社の従業員を一方的に怒鳴りつけたり、家族で出かける時に遅れてきた奥さんや娘に怒鳴る姿を見たこともあったといい、「あまりかかわり合おうという気にはならなかった」という。【山衛守剛】
 ◇自殺勧誘サイト、1年で219件確認
 インターネット上の違法・有害情報について、通報を受け付ける「インターネット・ホットラインセンター」(東京都港区)は、今年5月までの1年間で、219件の自殺を誘引・勧誘するようなサイトを確認した。会員制サイトを開設し、登録費用を取って自殺希望者同士を引き合わせていた例もあったという。
 センターは開設者やサーバー管理者に削除要請しているが、応じたのは7〜8割にとどまる。
 センターは「ネットの掲示板などに自殺を呼びかける内容を書き込んだだけでは違法とならないうえ、細かい日時や場所の打ち合わせは志願者同士がメールでやり取りすることが多く、実態をつかみにくいのが現状だ」と話している。
 警察当局は、自殺サイトの利用者が集団自殺することが社会問題化したため、発信者情報の提供を受け、本人を説得するなどの対応を始めている。昨年は全国で75件79人の情報提供を受け、うち43人は本人、家族に説得したり、自殺現場で救助するなどして予防ができたという。【遠山和彦、曽田拓】

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