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2007年10月06日(土) 13時46分

「奥さん」と呼ばないで、「おばさん」はもっとイヤ!ツカサネット新聞

自転車で道を走っていると、道路工事中の係のひとが私にこう呼びかける。
「奥さん、そちらは通れません。こっちを通ってください」
洋品店で洋服を選んでいると、店員さんがこう語りかける。
「奥さん、こちらのほうがお似合いですよ」

なるほど私は40代女性。普通なら一家の主婦であっても不思議はない年齢なのだから、赤の他人からみれば「奥さん」と呼びかけるのも自然なことと思えるのだろう。

けれども私は断固としていうが「奥さん」じゃない。私は結婚なんかしていないし、内縁の夫がいるわけでもない。

私は同性愛者である。恋愛の対象は常に女性。
だから、男性と結婚しようとかしたいとか、これまで爪の先だって考えたことはなかった。
そんな私が「奥さん」と呼ばれるのは不快である。異性愛者で未婚の女性が「奥さん」と呼ばれてしまうのとはまた別種の不快さがある。

同性愛者がよく使うことばだが、この社会は「異性愛強制社会」だ。同性愛者はその存在すら無化し、すべての人間が異性愛者であることを強制する社会だ。その現象はいたるところに現れているが、結婚しているかも定かでない女性を、闇雲に「奥さん」と呼びかけるところにも片鱗をうかがうことができる。すべての女性(女性に限らず男性もだが)は結婚していなければならないという無意識的な押し付けがここにはある。

もちろん、単に同性愛者にとって「奥さん」という呼びかけが不快なだけではない。あくまで憶測で言うのだが、はっきりとした考えがあって独身を通している異性愛の女性だって「奥さん」と呼ばれたりするのは、やはり心外ではないのだろうか。また、理由あって結婚できない異性愛の女性も「奥さん」と呼ばれたら悲しいのではないだろうか。

では、なんと呼べばいいのだろう。若い女性なら「おねえさん」でいいかもしれない。「おねえさん」という語彙ならやさしい雰囲気がある。けれども中高年の女性を「おねえさん」と呼ぶのには無理がある。「奥さん」と呼ぶのでないとしたら、では「おばさん」だろうか。

残念ながら「おばさん」ということばには、しばしば侮蔑の意味も込められているので、ことばの感性のまともな大人なら見知らぬ女性にそう呼びかけるのはためらわれるであろう。こう考えてみると日本語には、中高年の女性に呼びかける適当なことばが見当たらないことに気がつく。

もうずいぶん前になるが、「中高年」ということばの語感が悪いので、「熟年」という造語を創出し、中高年者をこう呼ぼうという動きが広まったことがあった。けれども現在「熟年」ということばがあまり聞かれなくなったところを見ると、造語というものはなかなか定着しない品物だと思う。

だから「奥さん」とか「おばさん」に代わる造語を新たに作り出してもきっとそれは定着しないだろう。だとするならば、せめて「そちらの方」とか「あなたさま」といった不定形なことばで代用するのが、一番穏当なのかもしれない。

とにかく「奥さん」と呼びかけるのだけはやめてもらいたい、というのが私の願いだ。


(記者:千地有井)

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